誰にだって嫌いなモノはあると思う。それがたまたま私は男だっただけ。他人にとやかく言われる筋合いはない。
好きな人を作る気も、恋人を作る気も、結婚する気もない。親が孫が欲しいと泣くなら養子を取るつもり。
とにかく私は人生で深く男に関わらないで生きていくのっ!







誰かに呼ばれたような気がした。魂が震えている。行かなくちゃ。私は、行かなくちゃ…。


「その結果迷子って…」


自分自身に呆れてものが言えない。というか呆れている場合じゃない。早くバスの所に行かないと置いていかれる。
頭ではそう分かっているのに、公園の中を通り抜け森の方へ足は勝手に進んで行く。


高校一年の秋、弓道部に所属している私は神奈川で行われた大会に出場した。
結果は個人では三位。団体は一位と優秀な成績を抑え、日が暮れる前に神奈川を後にしようとした時だった。
みんなでレンタルしたバスに向かう途中、何かに呼ばれたような気がした。頭で考えるよりも先に体が動き、団体から離れた。賞を取り浮かれているみんなは私が離れたことに気が付くことはなかった。


荷物が重い。早く戻らないとみんなに迷惑がかかる。ここは知らない土地で、すぐに戻れる保証もないのに。体は勝手に動く。行かなくちゃならない、理由もなくそう思う自分がいて…。私は森の中を歩く。


視界が晴れた。
そこには小さな湖があり、その辺に一人の少年が立っていた。


「…あ……」


胸が焼けるような想いが込み上げ、消えた。


こんなところで男に会うなんてついていない。無意識に顔をしかめる。
学ランを着た黒髪の少年が湖をジッと見つめていた。純日本人らしい黒髪と黒目を持ち、男にしては可愛いらしい顔立ちだ。
それにしても、こんな所で何をしているんだろう?


………。


…これはあれかな?あれだよね?それしか考えられないよね?


自殺、だよね?


「…っ!」


冗談じゃない!見ず知らずの男が死のう死にまいがどうでもいいけど、自殺すると分かっていてはいそうですかと無視出来る神経は生憎と持ち合わせていない!私はその少年に向かって駆け出す!


「ちょっと待ちなさーいっ!」


私の声に少年は振り向いた。それから「しまった」とでも言いたそうな表情を浮かべる。


「あなた、一体何考えてるのっ!?」
「いや、その…」


少年に詰め寄るとしどろもどろな返事を返された。


「あのね、何があったか知らないけど自分だけが辛い目や悲しい目にあっていると思っていたら大間違いよっ!自殺だなんて、生きたくても生きれない人達に対して失礼だと思わないのっ!?これだから男は…」
「ち、違うっ!」


慌てたような声に私は尚も言い募ろうとした口を閉ざした。


「俺は自殺なんかしようとしていないっ!」


私は怪訝に思い眉を寄せる。


「なら何をしようとしていたの?」
「そ、それは…」


少年は口をつぐみ俯いた。…何、この人?見た感じでは悪い人には見えない。嘘をつくような感じにも思えない。


「とりあえずここから離れない?」
「………」
「ほらっ!」


促す私の顔を窺うように見た少年は、抵抗するかのように一歩下がった。


「うわぁ!」
「っ…!?」


偶然にもぬかるみを踏んでしまった少年の体が池に向かって倒れて行く。私は反射的にその腕を掴んだ。
私に人一人を支えることが出来る力がある訳もなく、私は逆に引っ張られ二人揃って池の中へと落ちて行くのだった…。







水に映る月一つ



誰かが笑う声が、頭に響いた。





人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -