ゆーちゃん。
大好きで大好きで、大好きなゆーちゃん。
あなたをずっと好きでいたくて誰かを好きになるのが怖くて、男を嫌いになりました。
優しくて暖かい、私の大切な…




……ん??





ぴたっと涙が止まった。
ちょっと待っていやいやちょっと待って、なんかおかしいよちょっと待って。


「…陛下」
「ん?」


ジッと陛下の女の子みたいに大きな黒い瞳を見つめる。…フォンビーレフェルト卿という婚約者がいて、ウエラー卿や猊下といろんな噂が飛び交う陛下。
記憶の中のフリルのワンピースを着て頭にリボンをつけていた可愛い女の子のゆーちゃん。


「陛下って、女の方だったんだ!?」
「はぁっ!!?」


衝撃のあまり敬語を忘れて叫ぶ私の声よりも陛下は大きな声で叫ぶ。
ああ、なんということだ!私はなんて失礼な勘違いを…!


「ご、ごめんなさい!私ってば陛下は男の方だと露ほども疑いませんでした!ごめんなさい!」
「いやいやいや、ちょっと待って落ち着こうルナ。俺は男だから」
「ええ!?」
「なんでそこで驚く!?」
「だって陛下はゆーちゃんでしょ?ゆーちゃんは女の子でしょ?なら陛下は女の子でしょ?」
「……あ〜」


陛下は頭を抱えて唸る。私は訳が分からなかった。


「ルナ、誤解がある」
「え…?」
「ゆーちゃんは男の子です」


……………。
…………………!!?


「はあぁっ!!?」


え、ちょっ、まっ…!
ゆーちゃんが、男の子!!?


「あんなに可愛いかったのに!?」
「そりゃ、小さい時はみんな可愛いだろ」
「毎日毎日フリルのワンピースを着ていたのに!?」
「あれはお袋の趣味!」


ええ〜!?
ええええ〜!!?


両頬に手をあてて衝撃を受ける私を見て陛下は呆れたよう、でもどこか嬉しそうにため息をつく。


「ゆーちゃんが女の子だって思っていたのにずっと好きでいてくれたんだな」
「だ、だって、アメリカなら女同士でも結婚できるし…」
「そういや、アメリカに留学したいって言ってたな」


陛下は顔をくしゃっと崩して私をぎゅうっと抱きしめる。ドキドキ、心臓が鳴る。
そっか。ゆーちゃんは男の子だったんだ。陛下は男の人なんだ。
いきなりすぎて、頭が混乱して、なんだかよく分からないけど、この人が大好きなんだってことは分かる。


「ありがとう。そこまで俺を好きでいてくれて。約束を守ろうとしてくれて。もう一度好きになってくれて」


ああ、私、幸せだ。








「陛下っ!?陛下、ご無事ですか!?」


切羽詰まったような声に上を見ると、珍しく慌てた様子のウエラー卿がいた。その手には陛下が被っていた帽子がある。
よくよく見てみると落ちた所からの距離はあまりない。5メートルといったところかな?


「陛下、お怪我はありませんかっ!?」
「うん、大丈夫だよコンラッド」


ほっとしたように息をはき「ロープを持って来ます」と言ってウエラー卿は顔をひっこめた。
ロープを使って上へ上がり、私と陛下が服についた砂埃をはらっているとウエラー卿が悔しそうに口を開いた。


「すぐに助けに行けず申し訳ありませんでした。さすがに立ち聞きするのは気がひけて少し離れていまして…」


…………。


そうだ。ウエラー卿ってばずっと私達のこと見てたんだ。
気を使ってどこかへ行ったと言うことは気を使わなくちゃいけないところまで見ていたと言うわけで…。


ひきつった私の顔を見てウエラー卿はにっこり笑う。…何、この弱みを掴まれた感じ。


「お二人に怪我もなく、しかも上手くいったようで何よりです。俺も協力したかいがありました」
「コ、コンラッド!」


協力?
私が首を傾げているとウエラー卿が少し意地悪そうな微を私に向けた。


「陛下はルナにどう接したらいいか、何かと俺に助言を求めてきたんですよ」


……あっ。
もしかして、と言うか間違いなくウエラー卿が言っていた陛下が気になっている相手って私のこと?


「コンラッド!もういいから!」
「すいません、つい」


顔を赤くして叫ぶ陛下の反応を楽しむようにウエラー卿は笑った。…腹黒い。
それを言うなら私も何かとアニシナさんにお世話になったよね。ちゃんとお礼を言わなきゃ。


見ると、夕日はほとんど沈み辺りは暗くなりかけていた。


「さて、そろそろ帰りましょうか」
「そうだな」
「はい」


前を進むウエラー卿の後を追おうとすると、差し出された陛下の手。陛下を見ると少し照れたように笑っていた。
その手を取ると、ギュッと握り返された。


「行こっか」
「…はい」


大人のマナーとしてウエラー卿は私達の繋いだ手を見て見ぬフリ。
幸せな気分で、私は城までの道を歩いた。
この手を二度と離さないと胸に誓いながら。









胸に刻む想い



あなたを好きでいてよかった。
あなたを好きになってよかった。





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