ゆーちゃんが好きで、大好きで…でも陛下を好きになった。ゆーちゃんのことを忘れたくなくてずっとその想いに気が付かないフリをした。
でも、忘れなくてよかったんだね。そう気付かせてくれて、ありがとう。









優しくて、でも力強い陛下の腕に抱きしめられて。
ゆっくりと体を離し見つめ合うと陛下の方から目をそらす。片腕を口にあてるその姿はなんだか可愛いらしかった。


「…俺、今めちゃ幸せだ……」


その言葉に胸に温かいモノがじわぁと広がってゆく。


「陛下、顔真っ赤です」
「…ルナだって」


顔を見合わせて私達はくすくすと笑う。


風が吹き、木の葉を揺らした。


「あ…」


私がかぶっていた帽子が空を舞う。大変っ、あれはアニシナさんから借りた物なのに。
帽子を追いかけて行くと「ルナ!」と珍しい陛下の鋭い声が聞こえた。


ふいに感じた浮遊感。


……え?


慌てた表情の陛下が伸ばした手に腕を引き寄せられ、そのまま抱き抱えられる。


そして…


陛下と共に私は落ちて行った。







ここが丘の上ということを忘れていた。それなのに、私は帽子に気をとられて足元を見ていなかった。落ちた私を陛下が助けてくれた。
全部私のせいだ。全部。全部。


「へい…か……」


頭から血を流す陛下。その顔は青白い。


脳裏を過ぎるゆーちゃんの姿。ゆーちゃんもこんなふうに私をかばって…。


「陛下…!陛下……!!」


また私のせいで!私のせいで!!どうして!どうして!?
どうして私は大切な人を傷付けてばかりなの…!?
私の涙がぽたぽたと陛下の頬に落ちる。陛下は目を開けない。
お願い、目を開けて!お願い…!お願い……!!


「……るーちゃん?」


それは掠れた小さな声だった。


「陛下…」


涙でぼやけた視界。まばたきで落ちた涙。そこには軽く目を見開いた陛下の姿があった。


「陛下、陛下、大丈夫ですか?大丈夫ですか?」
「平気、だよ…。そんなに高くなかったからさ」


私を安心させるように陛下は笑顔を浮かべる。


「ルナは、ケガはない?」
「はい…。大丈夫です。陛下が、守ってくださりましたから」


安堵の涙を零しながら陛下に心配をかけないように笑顔を浮かべる。よかった、と言って陛下は体を起こそうと腕に力を入れる。


「陛下ダメです!血が!」
「血…?」
「…あれ……?」


帽子がとれた頭から血は流れていないし、顔色も普通。…さっきのはゆーちゃんと陛下を重ねた私が見た幻影だったんだ。


「よかった…」


安堵の息を吐き陛下の顔を覗き込む。


「陛下、痛むところはありますか?」
「腰がちょっと痛いぐらいかな。でも立てないほどじゃないし大丈夫だよ」
「本当ですか?無理をしてませんか?」
「うん、本当だよ。…なんか、思い出すなぁ」
「え?」


首を傾げると陛下は照れたように頬をかいた。


「昔さ、こんなふうに女の子をかばって落ちたことがあったんだ。あの時は頭を打って手術をしてって大変だったんだけどさー。…ルナが俺のことを呼んでる時、それを思い出した。それが前言っていた初恋の女の子なんだけどな。うわぁ、なんか恥ずかしいな」


目眩がした。
どきんどきん、動悸が早くなる。息が苦しくなる。
ねえ、さっき陛下はなんて言った?


『……るーちゃん?』


私は見た。
帽子がとれ、ぐしゃぐしゃになった陛下の頭に見えた傷を。それは、私を庇ってゆーちゃんが作った傷とまったく同じだった。


まさか…


「ゆーちゃん?」
「え…?」


私の声に陛下の黒い瞳が揺れる。まさか、とその口が動く。
訳が分からず呆然と私達は見つめ合う。そんな、こんな偶然なんて…。


「るーちゃん?」


鮮やかに昔ゆーちゃんと過ごした日々が脳裏に浮かび上がる。そして、幼い日のゆーちゃんと今目の前にいる陛下が重なる。


会えた。ゆーちゃんに、会えた。
ずっとずっと会いたかったゆーちゃんに、会えた。


嬉しくて、嬉しいって言葉じゃ言い表せれないほど嬉しくて、ただただ嬉しくて、何を言えばいいのか分からなくて、実感がわかなかった。
陛下はゆーちゃんだった。ゆーちゃんを忘れられない私が好きになった人はゆーちゃんだった。


「…陛下は、アメリカのボストンにいたゆーちゃんですか?」
「…うん」
「私を守って頭に傷を作ったゆーちゃんですか?」
「うん」
「陛下はゆーちゃんですか?」
「うん」
「私が好きで好きで、ずっと忘れられなかったゆーちゃんですか?」
「うん。そうだよ、ルナ」


胸に込み上げるこの想いはなんだろう。喜びや幸せ、そんな言葉じゃ言い表せられない。
ずっと、ずっと、会いたかった。


「ゆーちゃん…」


ぽろぽろと零れる涙。陛下はそんな私を抱きしめてくれた。


「ルナ、ずっと俺を好きでいてくれていてありがとう」


その言葉はどれだけ私の心を救っただろう。むくわれない想いだと、無駄な想いだとずっと思っていた。


でも、違った。
ゆーちゃんを好きでいて、諦めないで、ずっと待っていてよかったんだ。


「俺をもう一度好きになってくれてありがとう」


優しい陛下の笑顔。私が大好きな陛下の笑顔。るーが大好きだったゆーちゃんの笑顔。


やっと、会えたね。










大切なあの子へ



苦しくて悲しくて流した涙、さようなら。今流れる涙は喜びの涙。




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