地下に迷い込んだ私を陛下が見つけ、背中に背負ってもらった日。陛下の温かいぬくもりを知ったその日から、私は眠れるようになった。
その日を境に、少しずつ胸に満ちてきた気持ちを私は知らない。…知らないフリをしてきた。
陛下の真剣な眼差しに私は射ぬかれた。
「陛下…」
「いきなり、ごめんな。でも…帰る前にどうしても伝えたくてさ」
柔らかく微笑む姿はいつもと同じ。優しい心を持つ陛下だけが浮かべることが出来る、優しい笑顔。
「どうして…私なんかを……」
どうして陛下みたいな方が私を好きとか言うの?
「なんかじゃないよ。ルナはその…み、魅力的だよ!」
「…っ」
顔を真っ赤にしながら言われたセリフに私も真っ赤になる。
「真面目でしっかり者で…でもどこか抜けていて。一緒にいて楽しいんだ」
ドキンドキンと胸が早鐘を打つ。顔が熱い。
「元の世界に戻っても、また俺と会って欲しい。俺の傍にいて欲しい。俺の…彼女になって欲しい」
「へい…か……」
胸が熱くなる。これからも陛下と一緒にいられたらどれだけ素敵だろう。そう、思った。
…ずっと無意識に目を背けていた想いが溢れ出す。
『強くなりなさい、ルナ』
アニシナさんの言葉が頭に過ぎる。過去となってしまったゆーちゃんへの想いを嘆く私に向かってアニシナさんが言った言葉。
『ルナ。もう逃げるのはおやめなさい。どうしてなのか。その理由はちゃんと分かっているはずです』
そう。分かってた。本当はずっと分かっていたんだ。
でも弱虫な私は認めたくなくって、ずっと逃げ続けていた。
でも…もう逃げることは出来ない。
唇が震えた。感情が高まってうまく言葉が出てこない。意味もなく涙が零れる。
「私…私は……」
陛下は穏やかな瞳で私を見つめている。それがまた私の胸を熱くする。
「私は…陛下が……」
私は…
「私は、陛下が好きです」
言葉にすると、その想いがより強く思えた。ずっと私は陛下が好き。陛下の優しさにずっと私は惹かれていた。
ポロポロと零れてくる涙。驚いた陛下の表情。
「本当…に?」
はい。本当です。私はあなたのことが好きです。この気持ちに嘘はありません。
でも…
でもね……
それでも私はゆーちゃんが好きなの。
「ルナ…?」
泣きじゃくる私に違和感を覚えたんだろう。陛下が不安げに眉を寄せる。
ちゃんと陛下に伝えなくちゃ。私の気持ちを。全て。
「陛下のこと、好きです。でも、私…」
「…うん」
うまくしゃべることが出来ない私を急かすようなそぶりは一切見せず、陛下は私の言葉の続きを待ってくれた。
今までせき止めていた想いが溢れ出す。
「私は、それでも、ゆーちゃんのことが好きだから…!」
過去となったゆうちゃんへの想い。でも、捨て去ることは出来なくて…。陛下を好きになるということはゆーちゃんへの裏切りのような気がして…。私は…。
「分かってるんです。捨てなきゃいけない想いだって。でも…私にとってゆーちゃんは世界の全てで……」
捨てようとした。何度も何度も。でもできなかった。その後どうやって生きていけばいいのか私には分からなかった。
「ゆーちゃんが大好きなんです。ずっとずっと…忘れることなんて出来ないんです…!」
幼き日の約束に縛り付けられた私。陛下が好き。でも、この想いから抜け出すことは出来ない。
「私は陛下だけを好きになることが出来ません。それは…陛下を傷つけてしまうでしょ…?」
ゆーちゃんだって、私がこんなふうに約束に縛られていると知ったら悲しむ。
私は…大切な人を傷つけることしか出来ないんだね……。
スッと陛下の手が私の頬に触れ、俯いていた私は顔を上げた。
そこには陛下の優しい笑顔があった。
「陛下…」
どうして、そんな優しい笑顔を私に向けてくれるの?
「俺はルナが好きだよ。だからルナも俺のことを好きって言ってくれて、すんげー嬉しい」
どうして…そんな優しい言葉をかけてくれるの…?
「ルナ」
陛下は優しい手つきで私の涙を拭う。
「大切な人がいるのに俺を好きになってくれてありがとう」
…え……?
「忘れられない人がいるのに誰かを好きになるのってさ、凄く難しいことだと俺は思うから。だから、ありがとう」
止まりかけていた涙がまた零れた。さっきとは違う理由で。
陛下の腕が私の背中へ回る。暖かい胸に抱かれ、私は恐る恐る陛下の背中に手を伸ばした。
太陽の存在を知った月
好きになった人がこの人でよかった。
そう、心から想います。