中学生時代、イケメン好きの友人がいた。三次元も二次元もどんとこいのミーハーな子だった。なのに男嫌いの私と不思議と馬は合った。
まあ、そんなミーハー少女は本当夢見がちで身近にいる男共にはまったく興味がなかった。理想が高いとでもいうのだろうか?
その子の理想にピッタリ当てはまる人なんていないだろうと私はずっと思っていた。
なのに、今私の目の前にはその子の理想そのもののような男がいる。
サラサラと風に揺れる茶色の髪に透き通った茶色の瞳。スッとした顔立ちに涼やかな目元。浮かべる微笑みは柔らかく、スラッとした長身にしっかりとした体つきをした美丈夫ウエラー卿コンラッド。
…くそ、誉めすぎた。
私の視線に気が付いたウエラー卿はにこっと微笑み紅茶を飲む。その動作一つ一つがさまになっている。
今日、陛下においしい茶菓子が手に入ったからと言われ私はお茶に呼ばれた。
しかし、執務がなかなか終わらない陛下は先にウエラー卿とお茶をしといてくれと言い出した。
陛下の執務が終わるまで待っていますよ、と言ったら申し訳ないから、言われ…。正直、私は男との二人っきりが嫌だっただけなんだけど、そう言われたら大人しく引き下がるしかなかった。
なんと言うか…私はこういう好青年タイプの男が特に嫌いだ。なんだかタラシっぽく見えるので。事実、コイツはタラシだ。私の直感がそう言っている。間違いない。
「ウエラー卿ってモテますよね?」
「ぶっ…!」
私のなんの脈絡のないいきなりの問いに紅茶を飲んでいたウエラー卿はむせ返った。吹くのはプライドにかけて堪えたっぽい。……ちっ。
「ゴホッゴホッ……。失礼」
落ち着いてからウエラー卿は困ったように眉を寄せる。
「突然何を?」
「いえ、なんとなく」
しれっとした表情を浮かべ紅茶を飲む。ウエラー卿は扱い辛そうな顔をした。
基本、私は男に対してはこの態度を貫き通している。陛下は…少し例外だけど。何故かあの人といたら私のペースは狂わされてばかりだ。
「…そう言えば、前に陛下からも同じようなことを言わたなぁ」
「陛下が?」
どうして…?
私の頭にむわんっとメイド達の中で噂になっている陛下とウエラー卿の話しが浮かび上がる。
『陛下をお守りするウエラー卿!ああ、なんて素敵なのかしら!』
『お似合い過ぎるわ!』
『でも陛下にはヴォルフラム様という婚約者がおられるじゃない』
『障害を乗り越えてこそ二人の愛は深くなるのよ!』
『でも、ウエラー卿のことを狙っている女達がたくさんあるんじゃなくて?』
『陛下は内心では穏やかでないはずよっ!』
『あ〜もう!もどかしいわねぇ!』
『何を言っているのよ!それをお見守りするのが私達の役目じゃない!』
『そうね…そうよねっ!』
『陛下とウエラー卿がお幸せになるように、私達が手助けするのよっ!』
「どうしたんですか、ルナ?急に頭を抱えて…」
「……なんでもないです」
頭をかぶりふって頭の中に浮かんだものを消す。
恐る恐る聞いてみた。
「…どうして陛下はそんなことをお聞きになったのですか?」
するとウエラー卿は何故か楽しそうに笑った。首を傾げる私を見て微を濃くする。
「女性の扱いを教えて欲しいとのことでした」
「女性の扱い…?」
「はい。なんでも、気になる女性がいるそうです」
…え……?
頭を殴られたよう衝撃が襲った。頭がクラクラして夢か現か分からなくなる。心臓が早く鳴り、息苦しくなる。
陛下に…好きな人が……?
「そう…なんですか……」
口から出た言葉は掠れていて、ちゃんと言葉を発したのか分からなかった。
陛下に好きな人がいる。別におかしいことじゃない。なのに…どうしてこんなにも驚いている自分がいるんだろう?
陛下の声が聞こえた。見ると、フォンビーレフェルト卿とフォンクライスト卿と共にこっちへ歩いて来ている陛下の姿があった。
胸が苦しくなる。熱い何かが込み上げてきて泣きそうになる。熱くなる目頭を無視して必死に笑顔を作った。
捜し物探し中
こんな気持ちを、私は知らない。