ゆーちゃんと初めて会った時のことは幼過ぎて覚えていない。気が付けばいつも一緒にいた。


お父さんの海外出張の都合で私はアメリカのボストンで産まれた。ゆーちゃんは近所の公園で知り合った同い年の日本人だった。
仲良くなった私達は毎日一緒に遊んだ。それに嫉妬したゆーちゃんのお兄ちゃんとのゴタゴタとかいろいろあったけど…毎日が楽しかった。


私はゆーちゃんが大好きだった。ゆーちゃんも私を大好きと言ってくれた。


ずっと一緒にいようね。


そう言って指切りをした。


ゆーちゃんに会えない日はぐずっていつもお父さんとお母さんを困らせていた。ゆーちゃんのお兄ちゃんとはいつもゆーちゃんをめぐってケンカをしていた。


あの頃の私にとって、ゆーちゃんは世界の全てだったんだ。





いつもの公園で遊んでいる時だった。ジャングルジムに上った私はその高い景色が嬉しくてはしゃいでいた。手を離して立ち上がったその時、強風が吹いた。


「るーちゃん!」


バランスを崩した私をゆーちゃんは庇い、そのまま二人でジャングルジムから落ちた。


その時のことは衝撃が強くて今でも清明に思い出せる。


頭から血を流すゆーちゃん。目はつむったまま開かれることがなくて、いつも赤いほっぺは青かった。ゆーちゃんの体がどんどん冷たくなって、このままゆーちゃんは目を開けないんじゃないかと思うと怖くて…大声で泣き叫んだ。


病院に運ばれたゆーちゃん。慌ててやって来た私とゆーちゃんのお父さんお母さん。


ゆーちゃんのお父さんお母さんは心配そうにゆーちゃんが入っている部屋を見つめていた。
私はただただ泣きじゃくっていた。


「お前のせいだ」


ゆーちゃんのお兄ちゃんが瞳に静かな怒りを持って私を睨む。その瞳に怯え私は泣き止む。


「お前のせいでゆーちゃんは怪我をしたんだ。お前のせいでっ!」
「しょーちゃん、やめなさいっ!」


パァン―…


私は叩かれた頬を押さえて呆然とした。


「ゆーちゃんにこれ以上関わるなっ!」


頬が痛くて。胸が痛くて。涙がポロポロ零れた。お母さんに抱きしめられてたくさん泣いて、そのまま眠ってしまった。





ゆーちゃんは頭を十八針縫う大怪我で、しばらく入院することになった。


「るーちゃん!きてくれたんだ!」


お見舞いに行ったゆーちゃんは私をいつもとなんら変わりない笑顔で迎えてくれた。


ゆーちゃんに嫌われたかもしれない。そんな不安気な思いは一瞬にして吹き飛んだ。安心して涙が零れる。


「るーちゃん、どこかけがしたの?いたい?」


私は涙をぬぐいながら首を横にふる。


「だいじょうぶ。どっこもいたくないよ。ゆーちゃんがまもってくれたから」


私はゆーちゃんの手を握る。


「ありがとう、ゆーちゃん。るーをまもってくれてありがとう」
「ゆーちゃん、るーちゃんのことだいすきだもん。だからるーちゃんにけががなくてすっごくうれしい」


そう言うゆーちゃんの笑顔が眩しかった。大好きだって想った。


「るー、ゆーちゃんのことだいすき」
「ゆーちゃんもるーちゃんだいすきだよ。ずっといっしょにいようね」
「うん!やくそくする!」


大好きなゆーちゃん。ゆーちゃんの傍にずっといられるならそれだけで幸せだと思った。


「るーはね、ゆーちゃんがいちばんすき。これからもずっとだよ!」







それからしばらくして、お父さんの仕事が終わり私は日本へ行くことになった。


ゆーちゃんと離れることが悲しくて泣きじゃくる私をゆーちゃんが一生懸命あやしてくれた。


「るーちゃん、なかなくていいよ。すこしはなればなれになるだけ。すぐにまたあえるよ」


それでも泣き止まない私の頭をゆーちゃんは優しく撫でてくれた。


「るーちゃんがゆーちゃんをずっとすきでいてくれたら、またあえるから。だから、なかないで?」
「ひっく……ゆーちゃん……」


私は何度も頷いた。
ずっとゆーちゃんを好きでいる。他の誰かを一番に思ったりしない。ずっとずっと、私の一番はゆーちゃんだから。


ゆーちゃんが大好きなるーとして、会いに行くから。だから、待っててね?


幼心にかたい決意を抱いて、私はゆーちゃんと別れた。
また会えると、そう信じて。









幼いあの日、今のこの日



そして今も私は信じ続けている。
ゆーちゃんとの約束を。
幼い頃の自分恋心を。





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