カンカンと照る太陽。賑わう木の葉の町並み。


(気持ち悪い…)


すぐさまその場にうずくまりたいのを堪えて物陰に移動する。胸がムカムカして吐き気がする。気持ち悪い…。
物陰に入り口元をおさえて座り込んでいると声をかけられた。


「あなた、大丈夫?」


足音一つ聞こえなかったので私は失礼なぐらい驚いてしまった。


「気分が悪そうだけど?」


藁で編んだカサを深く被ったその人は男の人なのに女のような長い黒髪をしていた。顔は見えないけど声の調子からあまり若い人ではない。


「大丈夫、です。軽い貧血を起こしたようで…。ありがとうございます」
「あらそう?」


この人と関わりたくない。理由もなくそう思った。でもその人はこの場を動こうとしない。


「あなたのその背中の家門ってうちはのものよね?」
「…はい」


無意識に警戒してしまう。…怖い、のだ。私は。今目の前にいるこの人が。
口の端をあげてその人は笑う。蛇のような笑い方だ。


「なら、うちはイタチを知ってるわよね?」
「………まあ、はい」


イタチの名前に心臓が跳ね上がるが何事もないように装う。恋人です、だなんて言う必要はないだろう。イタチのことを聞くということはこの人も忍なのだろうか?


「彼はすばらいわね。とても魅力的な力を持っているわ」
「………」
「この生温い里にいるのがもったいない。他の里ならば彼は力を思う存分発揮できたことでしょうに」
「やめてください」


嫌悪感を隠さず、むしろむき出しにして私は言う。自分でもびっくりするぐらい凛とした声で。


「イタチはそんなことを望んでいません。イタチのことを何も知らないあなたが好き勝手に余計なことを言わないでください」
「…そう。あなたはうちはイタチについてよく知っているの」
「少なくともあなたよりは」


その人は微を濃くする。…不愉快だ。


「そうね、勝手なことを言ってごめんなさい。そろそろ失礼するわ。…あなた、体大事にしなさいよ?」


そう言い残して立ち去っていく背中を睨みつける。胸中には不快感しかない。


「なんなのよ…」







買い物をすませ家に帰るとそのままベットに倒れ込む。気持ち悪い。


『この生温い里にいるのがもったいない。他の里ならば彼は力を思う存分発揮できたことでしょうに』


やめて。そんなふうに言わないで。イタチを、力ある道具のように言わないで…!







暗い海に沈んでいた意識がゆっくりと意識が浮上してゆく。頭を、髪を撫でる手。優しい手。


「イタ…チ……」


ゆっくりと瞼を上げれば目尻を垂れて微笑むイタチの顔があった。
外はもう暗く月が輝いている。


「イタチ…」
「どうした?嫌な夢でも見たのか?」


幼子を宥めるような口調に笑おうとして、自分が泣いていることに気付く。


「…どうしてイタチは天才なんだろうね。イタチがすごい落ちこぼれだったらよかったのに」
「…薮から棒にどうしたんだ?」


私の前触れのない呟きにイタチは首を傾げる。


「落ちこぼれならこんなにたくさんの任務を任されることも、それに見合う努力をする必要しなくていいのに」
「………」
「私がイタチを独り占めできるのに」


瞬きをしてからイタチはとろけるような微を浮かべた。ドキンと胸が高鳴る。


「なに?なんでそんなに嬉しそうなの?」
「嬉しいからだな」


イタチの冷たい手が私の濡れた頬を撫でる。


「お前は俺が落ちこぼれでも好きでいてくれるんだと思ってな」


優しい笑顔。でもそれはどこか寂しそうで…。


「あたりまえじゃない」


少しムキになって言うと、イタチは微笑み顔を近付けてきた。


孤独な人。
天才だったゆえにその身を忍に落とした人。周囲の人間はイタチに期待をするだけする。イタチの心など見ないで。何より、イタチの心がイタチを傷付ける。優しい、優しい人だから。


「好き…好き……」


私はイタチに想いを伝えることしかできない。一人じゃないよ、私がいるよ。








孤独の海と向かう蒼い空



私は絶対イタチを一人にしない。




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