イタチがサスケくんに甘々な理由が分かった気がする。


(あの子可愛いわ…)


学校帰りなのだろう。カバンを背負い柱の影からこっちの様子を窺ってる。気付かないフリをして接客や茶葉の整理をしているさい少しそっちの方へ体が向くと慌て隠れ、また姿を出す。可愛いったらありゃしない。


そんな日が三日続いた後、サスケくんは意を決したような表情で柱の影から出てこっちへ向かって来た。サスケくんがだいぶ近くに来てから内心吹き出しそうなのを堪えて「あれ?サスケくん?」と不思議そうに首を傾げる。


「学校帰り?」
「…うん」
「そっか、おかえり」


するとサスケくんはびっくりしたように目を見開いて私の顔をまじまじ見てきた。…イタチに似ている顔でイタチではなかなか見れない表情をされるとなんだがむず痒い。


「今日もお使い?」
「………」


そのままサスケくんは黙ってしまった。さて、どうしたものか。


「…サスケくん、私、今から休憩しようと思うんだ。よかったらお茶を飲みながら話し相手になってくれない?お団子もあるし」
「っ、うん!」


はじけたようにこっちを見上げ無邪気に笑うサスケくんはイタチと比べものにならないぐらい可愛くて、思わず抱きしめたい衝動にかけられる。落ち着け私。
お茶を入れて差し出すと嬉しそうに受け取り慎重に息を吹きかけ飲む。


「おいしい!」
「本当?」
「うん!兄さんが言った通りだ!」
「………」
「…?どうかしたの?」


なんで、だろう。
私がイタチからサスケくんの話しを聞いていたように、サスケくんに私の話しをしていたんだって、そう思っただけで、嬉しくてたまらない。
私のことサスケくんになんて言ってるの?どんな話しをしているの?
聞きたいけど恥ずかしくて聞けなくて、不思議そうに見上げてくるサスケくんに「なんでもないよ」と今にも緩みそうな涙腺に力を入れて微笑む。


「ねえ、サスケくん。イタチの話し、聞かせてくれる?」


私が知っているイタチはイタチのほんの一部で、知らないことは山ほどある。私の知らないイタチを話すサスケくんは誇らしげで、どこか悔しそうだった。


「父さんは兄さんのことしか話さないんだ。俺だって頑張ってるのに」
「お父様、会ったことないけどすごく厳しいらしいね」
「うん。でも父さんはすごいんだよ!オレと兄さんはいつか父さんが働いている木ノ葉警務部隊で働くんだ!」
「へぇ、お父様も楽しみだろうね」
「そうかな?」
「うん」


こんなに慕われて嬉しくないはずがない。サスケくんは満面の笑顔で笑い、はっとしたような表情を浮かべて顔を私から背けた。


「どうかしたの?」
「……あの、アカネさん」
「うん」


ちらっとこっちを見てサスケくんは微かな声で「ごめんなさい」と言った。何についてか見当がついたので私は黙って言葉の続きを待つ。


「兄さんが最近家にいないのってアカネさんの家にいるせいなんだって思って…。嫌な態度とってごめんなさい」


あまりの可愛いさに堪えきれず私はサスケくんをぎゅうっと抱きしめる。サスケくんは「わわわっ」と驚きの声をあげたが逃げようとはしなかった。


「…大丈夫だよ」
「?」


イタチの一番はサスケくんだから。


それを言葉にしてしまうのは悔しくて賎しくて、卑怯だと思ったから心の中だけで呟く。


「アカネさん…?」
「サスケくんは、イタチのこと好き?」


髪を撫でながら問うと返ってきたのは迷いのない言葉。


「うん!」


イタチの宝物。


「サスケくんにお願いがあるの」


サスケくんを離しその瞳を覗き込む。


「イタチの背中を頑張って追い駆けてあげて。そしていつか横に並んで、それで…」


私がしたかったこと。
でも、できないこと。
それを勝手にサスケくんに託すことは私の身勝手な自己満だ。


それでも…


「それで、イタチを守ってあげて」


今はまだ小さい手だけど、いつかイタチが認める忍になって。その手で、イタチを守って。
イタチが傷付かないように。
イタチが笑えるように。
イタチが、泣けるように。


「お願いしても、いいかな?」


サスケくんは私の顔をじっと見ている。私は今口元に笑顔を貼り付けているけど目は潤んでいるだろう。いきなり何を言い出すのだと驚いているのだろう。


なのに、


「うん、分かった。約束する!」


サスケくんは約束してくれた。


「俺、アカネさんのことも守るよ」
「え?」
「アカネさんのことも兄さんのことも、俺が守る!二人を守れるぐらい俺は強くなってみせる!」


イタチ。
サスケくんは本当に優しい子だね。


「ありがとう、サスケくん」


この約束は二人だけの秘密。イタチだけには絶対内緒。


そう言って私達は指切りをした。お互い共通の大好きな人を想って、約束を交わした。









黄昏れに福音が響く



「サスケくん、また来てね」
「うん!」




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