「はい、どうぞ」
「ありがとう。ふふ、おかげですっかりお茶にハマっちゃったわ」
「それは嬉しいですね」


にっこり笑うミコトさんにつられて私も笑う。
ミコトさん美人だなぁ。イタチってミコトさん似の顔だよね。お父様見たことないけど。サスケくんとも会ってみたいな。イタチそっくりだったりして。


そんなことを考えているとミコトさんが「ねえねえ」と少女みたいに好奇心剥きだしの声と笑顔で聞いてくる。


「アカネちゃんとイタチ、付き合ってるの」
「えっ?」
「違うの?」


いきなりのことに驚きの声をあげる私にミコトさんは残念そうに眉毛を垂らす。…女はいくつになっても恋話が好きな生き物なんだなぁ、と改めて思った。


「アカネちゃんなら安心してイタチを任せられるのに。あの子、頻繁にアカネちゃんのところにお邪魔しているみたいだしアカネちゃん以外の女の子話し聞いたことないし」


確かにはたから見たら付き合っているも同然に見えるのかもしれない。でも…。


「付き合うってどちらかが好きだって伝えて了承したら、ですよね?」
「…まあ、そうね」
「なら、私とイタチは付き合ってません」


「一緒にいると落ち着く」とか「いつでも駆け付けてやる」とか、ある意味「好き」よりも甘い言葉を言われていたりするけど。


私はイタチが好き。
イタチも私のことを好きだと思う。
いや、自信もってそうだ!とは言えないけど…。
互いの気持ちを伝えたことはないけど分かっているから。だから、二人っきりでいる時はひどく落ち着く。
このままの関係でもいいんじゃないかとさえ思える。


「まったく、あの子は変なところで押しが弱いんだから」
「押しって…。まあ、イタチも暗部に入って今忙しそうですから」
「……そうね」


ミコトさんの表情が曇る。それはイタチの憂う時の表情とよく似ていた。
イタチの悩みをミコトさんは知っているんだ。ミコトさんに問いただしたい気持ちになる。でも、ダメ。それはイタチを裏切るような気がするから。


「大変な時期だから、支えてくれる存在が欲しいの…」


そう言い微笑むミコトさんは母親の表情をしていた。


「アカネちゃんにいい相手がいないならイタチをよろしくしたいんだけどね」


ミコトさんは明るい笑顔と声を作る。だから私もそれに合わせて何も気付かないフリをして笑う。


「私、実は毎月花束をくれる相手がいるんですよ〜」
「あら、そうなの?イタチより素敵な人?」
「そうですね。イタチより男前で優しいです」
「あらあら。イタチもオチオチしてられないわね」
「あははっ」


イタチが今悩んでいることはミコトさんも知っていること。なら、お父様も知っているだろう。木の葉の里の重大な任務か何かなんだろう。
つまり、私には何もできないということ。イタチが苦しんでいるのに。私は、相談相手にさえなってやれない。












そろそろ日付が替わる。電気を消しベッドに入ろうとするとこんこんっと窓を叩く音がした。
イタチ?こんな遅くに?


暗がりなので窓の外に影があるのが分かるだけでイタチの顔はまったく見えない。電気を付けないまま窓を開ける。


「イタチ、どうし…っ」


体が浮いた。そう頭が理解した次の瞬間押し倒された。両手首を掴まれ体を動かすことができない。


「イタチ…?」


窓から差し込む月の光りで見えたイタチの表情は何やら危機迫るものが見えた。


「どうしたの?」
「…母さんが……」
「え?お母様なら今日来たけど…?」


イタチは顔を歪め寄せ吐き出すように言う。


「アカネに求婚しているやつがいるって」


……………は?


「毎月花束を送って、男前で優しくてアカネはそいつに惚れているって」


……ミコトさぁぁぁあんっっ!!?


何イタチに言ってるの!?
いや、確かに嘘は言ってない!でも全部一言足りない!イタチってば何か誤解してるよ!え、何?イタチは私にそういう相手がいると知って慌ててやって来たの?


「アカネがそいつのことを本当に好きなら構わない。ただ、俺は…」
「イタチ、ストップ。誤解してる。お母様に弄ばれてる」


真剣な瞳に耐え切れず私はイタチの言葉を遮った。というか、次の言葉をこんな流れで聞きたくない。
誤解と聞いてイタチは眉を寄せる。


「確かに毎月花束をくれる人はいるよ。亡くなった奥さんの墓参りの前に店に寄ってくれる優しくて男前なおじいちゃんが」
「……なに…?」


イタチがこれでもか、というほど驚いた表情を浮かべた。


「お母さんがまだいた時夫婦で通いつめてくれてたんだけどね、奥さんの方が病気で亡くなられて…。ばあさんとの思い出の味だからって、今でも来てくださるの。頑張ってるアカネちゃんにご褒美だって言って花束を持って」
「………」


しばらく硬直していたイタチはややあって私の上からどき頭を抱えてうずくまる。体を起こしてそんなイタチを私はジッと見つめた。恥ずかしがっているのかな?


「…アカネが他の男のモノになるって考えたらいてもたってもいられなかった」


顔を腕で覆い、その隙間から瞳を覗かせイタチは私を見て言った。


「好きだ」


空気が震える。


「アカネが好きだ」
「…私も、イタチが好きだよ」
「………そうか」


私達の関係は今までとなんら変わらない。互いの気持ちをすでに知っていたから。
でも…
自分の気持ちを。相手の気持ちを。分かっていたとしても言葉にするということは、こんなにも嬉しいものなのか。


私はイタチの何の力にもなれない。それでもイタチは私を求めてくれた。それだけでいい。それだけで私は幸せだ。


イタチの手が私の頬に触れる。
近付く顔。私は目を閉じる。額に、瞼に、鼻に、頬に触れる唇。
くすぐったくてぎゅうっとイタチの服を掴むとイタチが嬉しそうに笑う気配がした。

そして、私達は唇を重ねた。











言の葉に乗せた夢



たとえこの夜の出来事がのちにイタチを苦しめたのだとしても、その時、確かに私達は幸せだった。




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