「お前はバカか」


突然の暴言に私は意味が分からず眉を寄せた。


ちょっと茶葉の仕入れミスしちゃって明日買いに行ってくるんだ。護衛?そんなものつけるわけないじゃない。面倒だしお金かかるし。


そう言った途端眉間にシワを寄せたイタチからバカの一言がとんできた。


「何かあったらどうするつもりなんだ」
「だ、大丈夫だよ。前行った時も大丈夫だったし」
「前?前に一人で行ったことがあるのか?」
「え、うん…」
「何を考えているんだお前は!ああ、何も考えてないからそんな迂闊な行動をとるんだな!前が大丈夫だったからと言って次も大丈夫だという保証はどこにあるんだ!」


め、珍しくイタチが怒ったうえに饒舌だ…。イタチってすごく心配性だったんだなぁ。長男だしなんとなく分かるかも。
にしても…
なんか、こうやって心配されるのって嬉しいな。


「アカネ、聞いているのか?」
「聞いてるよ。そんなに心配するならイタチが護衛してよ。明日休みだって言ってたじゃん」
「うっ…」


てっきりすんなり了承してくれるもんだと思ったのに予想に反してイタチは気まずそうに目をそらした。


「明日はサスケの修業につきやってやる予定が…」
「………」


修業かよ!あんだけ心配しといて弟との修行の方が大丈夫なんだ!?
確かに「最近サスケの相手をしてやれないんだ」とよくぼやいてはいたけどさ!兄弟愛は大切だと思うよ!?私は別に恋人なわけじゃないしさ!
別に護衛なんて必要ないし、イタチを誘ったのも「イタチと一緒に町へ出てみたいな」ていう下心があったからだし、別にいいんだけどね!でもなんかムカつくなー!!


イタチは深刻な顔をで悩み、ややあって一世一代の決断をしたとでも言うかのような顔を浮かべた。


「サスケには悪いが、何かあってから悔やんでも悔やみきれないしな。明日はアカネに付きあ…」
「いや、いいから」
「………」


無言で見つめ合う二人。


「アカネにつ…」
「いや、いいから。サスケくんと心ゆくまで修業してきて」
「………」


そんなやり取りを何回か繰り返し、最後は意地のはりあいになり互いの主張を取り消さなかったが、朝、家までイタチが迎えに来たならもう仕方がないということで二人で町へ出かけた。









賑わう町並みを見て私は誇らしげに横にいるイタチを見る。


「ほら、何にもなかったじゃない」
「それは結果論だ。それに俺がいたから大丈夫だったということもある」
「…ああ言えばこう言う」
「それはこっちのセリフだ」


ムスッとしたイタチの態度に私もムスッとする。二人の間に流れる不穏な空気。ハッキリ言って居心地が悪い。別にイタチとケンカしたいわけじゃないのに…。ああ、もう面倒臭いなぁ!
私はイタチの腕に抱き着いた。


「っ!」


目を見開き驚くイタチをぐいぐいと引っ張り賑わう町中へ入る。


「ほら、せっかく来たんだからいろいろ見て回ろうよ」
「…茶葉は買いに行かなくていいのか?」
「町の外の家なの。この通りは通り道。まだ日も高いしゆっくりしても大丈夫でしょ?帰りが暗くなってもイタチが守ってくれるから大丈夫でしょ?」


そう言えばイタチは苦笑を浮かべため息混じりに「アカネには敵わないな」と呟く。


「修業がダメがなった詫びにサスケに土産を買おうと思うんだ。何がいいと思う?」
「…イタチってサスケくんに相当甘いよね」
「唯一無二の兄弟だからな」
「兄弟か〜、私も欲しかったな」


もし兄弟がいたのなら、私はあの家に一人ぼっちではなかったかもしれない。一人にはいつまで経っても慣れない。それをイタチに言うと「慣れる必要はない」と言われた。


「誰だって一人は嫌なもんだ。だから慣れる必要はない。寂しくなったら俺を呼べ。アカネのためならどこにいたって駆け付ける」


ぎゅうっとイタチの腕に抱き着く力を強くする。嘘つき、とイタチに聞こえないように小さく唇を動かす。


イタチは嘘つきだ。任務を放り投げることなんてできないくせに。任務を、里を守ることを第一に優先するくせに。それなのにこんな優しい嘘をつく。
その嘘が嬉しくて、温かくて、イタチが大好きだと心が叫ぶ。


「そう言ってくれるイタチがいるから、私は寂しくないよ」
「…そうか」
「だからイタチも」


イタチは首を傾げて私を見る。
忍であるイタチが私の前で怒ったり、驚いたり、笑ったり、不思議そうにしたり。こうやって隠さずに感情を見せてくれる時、私がどれほど嬉しいか、イタチは知らないだろう。


「イタチも、私がいるから寂しがる必要なんてないからね」
「………」
「私はイタチの味方だよ。何に悩んでいるのか知らないけど、別に私に言う必要はないけど、それは覚えていて」
「っ…」


もうすぐイタチは暗部に入る。その日が近付くにつれてイタチは元気をなくしていくような気がした。
何かに憤っているように。怯えているように。イタチは一人、孤独を抱えている。


私がイタチの力になれたらいいのに。そう言うとイタチは「アカネは俺の傍にいてくれればそれで十分だ」と、こっちが恥ずかしくなるようなことを言ってきた。


顔を赤くする私を見てイタチは笑う。…この余裕の態度が悔しい。


「アカネ、あそこに和菓子屋があるぞ」
「あ、本当だ。おいしそうだね。食べて行こうよ!」
「用事をすませてからじゃなくていいのか?」
「うっ…。それもそうだね。よし、とっととすませてお茶にしよう!」
「ああ」


イタチが笑う。私も笑う。
せめて私がいる時だけはイタチが何もかも忘れて笑ってくれたらいいのに。









永久より今の幸せを



イタチが抱えているモノの大きさを知らない私は、ただそう願っていた。





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