晴れ晴れとした青空。


「陽菜、行くぞ」
「はい!」


土方に名を呼ばれた陽菜は嬉しそうに返事をした。







それは昨日の夜のこと。


「休み…ですか?」
「ああ、そうだ」


近藤は楽しそうな笑顔を浮かべて頷いた。


「毎日頑張って働いてくれてるからな。明日はゆっくり休んでくれ」


笑顔の近藤とは裏腹に陽菜は戸惑った。


「でも…」
「一日ぐらい洗濯物がたまっても大丈夫だよ。掃除だって」


それでも顔をしぶらせる陽菜に近藤は苦笑する。


「俺が頑張ってる陽菜にご褒美をあげたいんだ。ダメか?」


近藤の優しさに胸がぽぉっと熱くなる。


「…ありがとうございます、近藤さん」
「ああ」


近藤は満足そうに頷き、陽菜の頭をわしゃわしゃと撫でた。ちょっと乱暴だけど、優しくて。ごつごつした手なのに、不思議と気持ちよくて。大きくて温かい手の平は安心できる。


「近藤さん。邪魔するぜ。…ん?陽菜。いたのか」


近藤の部屋にやって来た土方は陽菜を見て少し目を見張る。
「トシ、どうしたんだ?」
「ああ、山崎のヤローに調べさせていた件についてだ」


そう言って土方は書類を近藤に渡す。近藤はパラパラと書類を見た。


「う〜む…」


顔をしかめる近藤。土方はタバコの煙りをはく。陽菜は真剣な二人の表情を見て邪魔になる前に去ることにした。


「近藤さん。私は失礼しますね」
「あ、ああ。すまない。…そうだ!」


礼儀正しく頭を下げる陽菜を見て近藤は名案を思い付いたとでもいうように声を張り上げた。


「トシ、お前確か明日非番だったよな?」
「あぁ、そうだが?」
「明日陽菜に休みをやったんだ。お前、陽菜をどこかに連れててやってくれないか?」


にっこり笑いながら言う近藤に陽菜は慌てる。


「近藤さん、いったい何を…」
「いいぞ」


あっさり頷く土方にはさらに慌てた。


「そ、そんな土方さんにご迷惑かけるわけには…」
「別に迷惑じゃねェよ。非番っても予定はねェし。それとも何か?俺じゃ嫌か?」
「いいえ!」


陽菜は首を左右に何回も振る。土方は苦笑し、陽菜の頭をぽんぽんと優しく叩いた。


「なら決定だ。明日、楽しみにしとけ」
「…はい」


不安そうに、でもうれしそうな笑顔で頷いた陽菜に土方は満足そうな表情を浮かべた。









『さらば、我が息子よ!』
『お父さ〜ん!』


大きなスクリーンに映し出され繰り広げられる二即歩行で歩くネコの親子の感動物語。


「くっ…。泣かせるじゃねェかちくしょー」


片手で顔を覆う土方。泣いているのは土方だけで他の客は寝ている。陽菜は初めての映画に喜び、初めて見る土方の泣く姿に驚いた。


「いい映画だったな」
「そうですね」


二人は肩を並べて町を歩く。土方は陽菜の歩幅に合わせゆっくりと。その優しさが嬉しくて…陽菜の頬は緩みっぱなしだ。


「腹空いてねぇか?」
「あ…言われてみれば」


空きました。と陽菜は笑う。それは不思議な感覚。攘夷浪士の屋敷にいた頃は一日ご飯を食べないことなんて普通で…それなのに今は、お腹が空いたら温かくておいしいものを毎日食べている。


「俺の行きつけの定食屋でいいか?」
「はい!いってみたいです!」


そこで出された土方丼を陽菜は好奇心から一口食べたがあえなく挫折したり、前に行った着物屋に(強引に)入り、さんざん着せ替え人形とされた後着物を(無理矢理)買ったり。


楽しくて、何もかも忘れて土方とすごすこの時間に夢中になる。
陽菜が笑うと土方も笑う。それが嬉しくて陽菜はまた笑う。世界がキラキラ輝いているようなそんな気持ちになる。


休憩がてら二人は団子屋に腰を下ろした。陽菜は出された見たらし団子をジッと凝視する。


「どうした?」
「いえ、その…」


陽菜の瞳が不安気に揺れた。叔父の家で、こういう物を何度か見たことがある。決して食べさせてもらえることはなかったため、食べていいのか、と瞬時してしまう。
土方は持ち歩き用マヨネーズを団子にかけそれを食べる。


「食べないのか?」
「い、いえ!いただきます!」


パクリと団子を頬張る。とたん、口の中に甘さが広がった。


「おいしい」
「………」


幸せそうな、とろけるような笑顔を浮かべる陽菜を見た土方は赤くなる顔を片手で覆った。


(ヤバイだろ、今の…)


男だけの所帯。女が好むような甘い物を陽菜に食べさせたことがなかった。甘い物を食べた時、陽菜はこんな表情を見せるのなら…もっとこの表情を見たい。そう、思った。
そんな土方の胸中を知るよしもなく、陽菜は幸せそうに団子を食べていた。





二人は江戸の町を見渡せる高台で茜色に染まる町を見る。


「綺麗…」
「そうだな」


あっという間に一日が終わった。沈んでいく夕日を少し恨めしく思う。


「楽しかったか?」
「はい、すっごく!」


陽菜が微笑むと照れているのか、土方は「俺もだ」とそっぽを見ながら応えた。思えば、土方と二人でこんなにゆっくり過ごすのは初めてかもしれない。陽菜はなんだか凄く嬉しい気持ちになった。


「そろそろ帰るか」


夕日を見つめながら土方は言った。陽菜の頭に『帰る』と言う言葉が繰り返される。そう、自分には帰る場所があるのだ。


「はい、帰りましょう土方さん!」


楽しかった今日一日を名残惜しく思いながら、夕日に染まった町をゆっくりと二人は歩く。


「また、二人で出かけるか」


何気なく土方は言った。それを聞いた陽菜は「はいっ」と元気に返事をした。








夕暮れに伸びる影



二つの影がそっと重なった。





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