雲一つない青空を、陽菜は不思議な気持ちで見上げる。今自分がここにいること自体が不思議でたまらなかった。
風に揺られはためく白いシーツ、タオル。そして、黒い隊服。
叔父と叔母を殺した人達と陽菜は今一緒に暮らしている。酷い扱いを受けてきたので、あの人達に厚意を持ったことなど一度もなく仇を討つなどそんなバカげたことをする気などカケラもない。
ただ、ふとした時に絶命した叔父や叔母、屋敷で一緒に働いていた人達や顔も知らない攘夷浪士の男達の姿が脳裏を過ぎる。その時は気分が悪くなりその場にしゃがみ込んでしまう。あの人達が死んだことは少しも悲しいとは思わない。しかし、人が死ぬ。そのこと事態はひどく悲しいことだと陽菜は思う。


真選組。
なんの躊躇いもなく人を殺す人達。その中に今自分がいて、こうやって中庭で洗濯物を干していることが不思議でならない。


陽菜は右手を左手で胸に押し当てる。土方が陽菜を連れ出したあの夜。陽菜の人生を大きく変えた。
連れ出してくれた土方を陽菜は感謝している。…それと、もう一人。



あの夜、土方が連れてきた少女を隊士達は好奇心や不信感を持って見つめた。その視線に耐え切れず俯く陽菜の視界に黒い靴が入った。目線を上げると大柄の男が穏やかな笑顔を浮かべて立っていた。男は陽菜と目線を合わすために膝を曲げる。


「名前、何て言うんだ?」


優しい声音だった。だから自然に答えられた。


「陽菜…」
「陽菜だな?ここの屋敷の者とはどう言う関係だったんだ?」
「当主様はお父さんの弟です。お父さんとお母さんを亡くした私を引き取って下さりました」


男は陽菜の顔の傷に優しく触る。


「その人にぶたれたのか?」


頷くと男は悲しそうに顔を歪めた。どうしてこの人が悲しく思うのだろう?陽菜が首を傾げると男は苦笑した。


「よく頑張ったな、陽菜。もう大丈夫だ」


その言葉に陽菜は瞬きをした。この人は何のことを言っているのだろう?疑問を抱きながら、なぜか頬に涙がつたった。いきなり流れた涙に陽菜は戸惑う。男は大きな手で陽菜の頭を撫でた。それが気持ち良くて、陽菜はしばらくは泣いた。



それが、真選組局長近藤勲だった。土方とはまた違う温かくて優しい人だと陽菜は思う。



乾いたタオルをたたみ、桶に入れそのまま陽菜は鍛練中の隊士達のもとへ向かった。
炎天下、鍛練をする隊士達を指導する土方は鬼の副長の名に相応しい。鍛練が終わったのを見計らい、皆のもとへタオルを持って行く。


「お、気が利くな」
「ありがと、陽菜」
「陽菜〜!こっちにもタオルくれ!」


「はいっ」と元気に返事をしてタオルを渡し回る。


「土方さん、どうぞ」
「ああ、すまねェな」


タオルを受け取りバサッと土方は自然な動作で上着を脱いだ。
と、そこへ、


「トシィィィイ!!」
「ぐはっ!?」


いきなり現れた近藤に突進され土方は軽く吹き飛び地面に倒れた。唖然とする陽菜を土方から守るように立ち近藤は土方を指差す。


「年頃の女子の前で脱ぐなんて何を考えてるんだお前は!」
「いってぇな!だいたい他の奴だって脱いで…」


そう言い回りを見渡した土方は沈黙した。気が付くと他の隊士達はいなかった。


「あいつらどこ行きやがった?」
「きゃー、女子の前で脱ぐなんて土方さん変態〜」


その声に土方のこめかみがひきつらせしげみの方へ木刀を投げた。それを見事にキャッチし、沖田が現れた。次から次へと…。土方は舌打ちをする。


「総悟!お前稽古サボって何してやがった!」
「寝てやした」
「堂々と言うな!」


眠そうにあくびをしながら沖田は陽菜の横に行く。


「陽菜、土方さんみたいな変態と一緒にい変態がうつらァ」
「ふざけんなよテメェ!」
「陽菜、こっちでさァ」
「えっ?ええっ?」


状況が読めない陽菜の手を掴み沖田は急に走りだす。


「待て、総悟!」
「ちょ、俺を置いてかないでくれよ!」


それを追い駆ける土方と近藤。


鍛練でかいた汗を流すために隊士達は中庭にある水道のシャワーを使って水浴びをしていたのだが、羽目を外して彼らは遊びだした。
そこに沖田、陽菜、土方、近藤の四人がやって来た。


ビシャァア…!


シャワーの水がおもいっきり土方にかかる。


『…………』


沈黙する一同。


「テメェら…」


土方のドスのきいた声にビクッ隊士達は肩を震わせた。


「何しやがるッッッ!!!」
『うわぁッッツ!!!!』


キレた土方がシャワーホースを持って大暴れ。逃げ惑う隊士達。水を盛大にあびる近藤。それを楽しそうに見ている沖田と呆然としている陽菜。だが、騒ぐ隊士達を見てなんだか無性に笑えてきた。


「あは、あははっ」


笑う陽菜を沖田は満足そうに見つめ、陽菜の手を引きバカ騒ぎに加わった。







青空の下



声をあげて笑うなど、いったいいつぶりのことだろう。





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