雲の切れ目から見える澄んだ空。久々に顔を出した青空の下、足元の水溜まりを踏まないように気を付けながら陽菜は買い物袋を下げて歩いていた。


ふと頭上から騒がしい声が聞こえる。


「コラ定春待つネ!」
「定春!ちょ、そんな所から飛び降りたらダメだよ!下に人がいたらどーすッ」


バッシャァン!!!


泥水を浴び、ボー然と立ち尽くす陽菜の目の前には大きな瞳をした白い犬がいた。









「えっ!?陽菜さん真選組で働いているんですか!?」


万事屋銀ちゃんの愛犬、定春のせいで全身泥まみれになった陽菜はシャワーを借り、新八が持って来た新八の姉の着物を着てほっと一息をついた。話しの流れで真選組で働いていると言うと万事屋銀ちゃんのメンバーは目を真ん丸にして驚いた。


「陽菜、どうしてあんな所で働いているネ!?」
「そうだよ陽菜ちゃん。あんなゴリラやマヨラーやS王子がいる所に君みたいな可愛い娘が…」
「いろいろとありまして…」


陽菜は曖昧に笑ってごまかす。何かを感じとったのか、三人が追求してくることはなかった。その優しさがありがたくて申し訳なくて…陽菜は笑顔を浮かべ会話をふる。


「それにしても、皆さんが真選組の皆と知り合いだなんて驚きました」


『知り合い』と言う言葉に三人は顔をしかめる。


「別に知り合いじゃないネ」
「腐れ縁、って奴ですよ」
「ま、いろいろあってな。陽菜ちゃんも気を付けろよ。あいつら本当ろくでもないから」


新八の補足とつっこみを交えつつ、銀時と神楽が語る真選組の話しに陽菜は時間も忘れて聞き入るのだった。







気が付けば夕日が半分沈んでいた。買い物の途中だったことを思い出し陽菜は慌てて帰り支度をする。


「長居をしてしまってすいません。私、そろそろ帰ります」
「あ、もうそんな時間?よし、陽菜ちゃん、送って行くよ」
「いえ、そんなわけには…」
「いいって。イチゴ牛乳も買いに行きたいし」


チラリと天井を見て銀時は言う。
少し戸惑ったが、陽菜はその申し出をありがたく受けることにした。


「それじゃあ…お願いします」
「よし、じゃあ行くか」


数時間で随分と陽菜を気に入った神楽が陽菜の腕に抱き着く。


「陽菜、また来るアル」
「…いいんですか?」


神楽は当然というふうに頷いた。


「陽菜はもう友達アル。いつでも来るがよろし」
「そうですよ、陽菜さん」


『友達』と言う言葉が胸に響く。


「ありがとうございますっ」


嬉しそうに微笑む陽菜を見て神楽と新八も笑った。







横にいる陽菜を意識して、内心そわそわしながら銀時は歩いていた。銀時の視線に気付いた陽菜はにこっと笑う。銀時はぎこちなく笑い返し口元を押さえた。


(可愛いなぁ、本当)


銀時は自分の回りにいる女性陣を思い出し顔をしかめる。あくが強いのばかりでどいつもこいつも手におえたもんじゃない。人畜無害そうな陽菜は銀時にとって新鮮で癒された。


「今日は本当に楽しかったです。真選組の皆の意外な話も聞けましたし」


その内容を思い出したのか、陽菜は小さく声をたてて笑う。


「土方さんにそんな一面があったなんて驚きです」


楽しそうな、嬉しそうな、愛おしそうなそんな笑顔を見て銀時は一瞬呼吸を忘れた。

天井裏には人の気配があった。その気配は間違いなく陽菜を見張っていた。真選組の監察だと銀時はふんでいる。見張られる立場でありながらこんなにも幸せそうに真選組の話しをする陽菜が不思議でならなかった。そして、銀時は陽菜が土方を特別に思っていることにも気付く。


「…陽菜ちゃんは、さぁ」
「はい?」


銀時は言い淀んだが「何でもない」と笑顔を作る。深く関わるべきではない。そう、銀時の本能が告げていた。


屯所の門には土方の姿があった。タバコをくわえ、その顔はあからさま不機嫌な表情で銀時を睨みつけている。


「土方さん、ただいま帰りました。遅くなってしまってすいません」
「ああ。…で、万事屋。なんでてめーがいるんだ?」


一瞬だけ陽菜に優しい眼差しを向け、それから銀時を睨む。睨まれた銀時はへらっと笑った。


「いやぁ〜。うちの犬のせいで陽菜ちゃんが泥まみれになっちゃってさ」
「シャワーと着物をお借りして、それで、つい長話をしてしまって…」


土方は軽く目をみはる。仕事熱心でなかなか休もうとしない陽菜が時間を忘れて長話。


「そうか。…楽しかったか?」


陽菜は顔を輝かせて頷く。


「はいっ!土方さん、私、友達が出来たんです!」
「そりゃよかった」


微笑み合う二人を見て、銀時は複雑な想いを抱える。陽菜が土方を見る瞳には確かな信頼があり、土方が陽菜を見る瞳には愛しさがあった。


「坂田さん、送ってくださりありがとうございました」
「…ああ。それじゃね、陽菜ちゃん」
「はい」


銀時は陽菜に手を振って背を向けた。


「陽菜、近藤さんがお前を心配し過ぎて面倒臭ェ状態になってる。早く会ってやってくれ」
「は、はい」


そんな二人の会話を背中越しに聞きながら。








陽菜の姿を見た近藤は泣きながら安堵した。陽菜は心配かけたお詫びもかねて、夜、居間で近藤に今日の話しをした。


「友達か!それは良かったな!今度の休みには友達とゆっくり遊んでみたらどうだ?」


その提案に陽菜の顔が輝く。


「ぜひ、ぜひぜひ!」
「遅くならなかったら買い物のついでに友達に会いに行ってもいいぞ?」


その横で土方は「近藤さんやるなぁ」と苦笑した。働きすぎの陽菜にどうやって休み方を覚えさせるか悩んでいた所だ。友達を上手く使ったな。コレで陽菜は進んで休みを取るだろうし、一日中働き積めと言うのもなくなるだろう。


楽しそうに笑っている陽菜を見ていると土方の頬が自然と緩む。
陽菜を見張らせている。その負い目が土方の心を曇らせる。しかし、まだ、それをとくわけにはいかない。


土方はゆっくりとタバコの煙を吐き出した。










新たな出会い




それがもたらしたものは、蝶の無邪気な笑顔。





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