どれだけ月日が流れても、変わらないモノがひとつ。
どれだけ他の女に焦がれても変わらない想いがひとつ。
ずっと胸の奥深くにいる人。
胸に大きな穴を作った人。
それでも『今』を生きる。
その人を愛した自分自身のために。
「え〜、こほん。とっつぁん酒を大量にくれた!今日は祝いだ、宴会だぁ!好きなだけ飲め!」
おぉぉおう!!!!
晴れやかな近藤の言葉に皆が酒をかかげた。がやがやと騒ぐ隊士達。
「陽菜!お前も飲め!」
酒を注いで回る陽菜に酔っ払った近藤が酒を向けた。陽菜は戸惑う。
「いえ、でも…」
「いーからいーから!遠慮せず飲め!」
そう言って近藤は酒の入ったコップを陽菜に渡す。
「陽菜、アンタ酒飲んだことあるんですかィ?」
「いえ…ない、です」
「へぇ…」
沖田はニヤリと笑う。
「なら飲んでみなせェ。結構上手いですゼィ?」
「総悟!テメェ未成年だろーが!」
「うるせェ、土方コノヤロー。祝いの場なんだからいいじゃねーかい」
警察官としてあるまじき発言を堂々とする沖田。
「まぁ今日ぐらいいいじゃないか。硬いこと言うな、トシ」
出来上がった近藤が土方の肩を叩く。この上司にしてこの部下あり。そんなことを思いながら土方はため息をついた。
「そう言えば陽菜って何歳なの?」
山崎が陽菜に問いかける。
「えっと…十八、です」
「へェ、俺と同い歳だったんですねィ」
「いろんな十八歳がいるもんだ」
「どーゆーことですかィ、土方コノヤロー」
「まんまの意味だよ沖田コノヤロー」
土方と沖田が睨み合いを始めるが、それを近藤は無視して陽菜に酒を勧める。
「未成年なんて気にしなくていいからグィっと飲め!」
「局長…」
山崎が非難の目を向けるが近藤は気付かない。
そのやり取りに他の隊士達も気付いた。
「陽菜も飲もうゼ!」
「うめェからよ!」
隊士達にも勧められ、意を決した陽菜はグッとコップを握りいっきに酒を煽った。その飲みっぷりに拍手が起こる。コップの中身を空にして、ぷはぁと息をはいた陽菜は言った。
「お酒って美味しいんですね」
それから陽菜は酒を次々に飲むが酔うどころか、顔色一つ変わらない。
「陽菜、いい飲みっぷりじゃねぇか!よし!俺といっちょ飲み比べでもしねェか?」
「飲み比べ…ですか?」
「おぉ!言っておくがこの原田右之助!女子供だからって容赦はせん!」
それを聞いた回りが二人の前に酒を持って来る。
「飲み比べか!いいねぇ、俺も混ぜてくれ!」
「近藤さん。アンタはこれ以上飲むな。と言うか服を着ろ!」
「まったくでィ。陽菜に変なもん見せるんじゃねーやい」
そして始まった飲み比べ対決。
原田は真選組一の酒飲み。大男でどれだけ飲んでも陽気に笑う。その原田が顔を赤くして虚ろな瞳で酒を煽っている。
一方で…陽菜は最初と変わらないペースでぐびぐびと酒を飲む。流石に顔はほのかにピンクだが、それ以外に変わった様子はない。
盛り上がる一同。だが、ついに原田が倒れた。
「ウィーアー陽菜〜〜〜ッ!!!!」
わぁぁっ!!
歓声が巻き起こった。
「陽菜、一言どーぞ!」
「えっと…勝っちゃいました」
「イエェェイ!!陽菜最高!!」
「ひゃっほ〜!!」
この場にいるほぼ全員ができあがっている。
「陽菜好きだァァア!!!!」
隊士の一人が叫ぶと、
「俺も陽菜が好きだァァァア!!」
「ふざけんなテメェ!俺の方が好きに決まってる!陽菜、愛して、」
「どけぇ!陽菜!愛してるゼ!」
降り注ぐ愛の告白。陽菜はこそばそうな微を浮かべる。
「テメェら!陽菜は俺のでィ!」
酔っ払った沖田がバズーカを放った。
『ギャァァァア!!!!』
「ちょ、沖田隊長何するんですか!」
「うるせェ!!!!」
そう叫んでバズーカをもう一発。
『ギャァァァア!!!!』
「たく…」
土方はため息をついた。酒に潰れた者、沖田にやられた者。生き残ったのは土方と陽菜だけだった。
「楽しかったですねぇ」
陽菜の語尾が少し伸びている。少し酔いが回って来たみたいだ。自分の膝の上で寝ている沖田の頭を陽菜は撫でる。
「沖田さん、最近元気なかったみたいでしたけど…元気になって良かったです」
土方は驚く。
「気付いてたのか…」
「はい」
今日の宴会の本当の意図は近藤が沖田のために開いたものだったのだ。土方は苦笑する。自分達意外に気付いている者がいるとは思わなかった。案外、他の奴らも気付いていたかもしれない。
「土方さんも元気がないようでしたけど…大丈夫ですか?」
土方は目を見開き、それから微笑んだ。
「ああ」
陽菜は微笑み、眠っている隊士達を見渡す。
「私のこと、皆さんが好きだって言ってくれました。すっごく嬉しかったです。私、ここに居ていいんだぁって思いました」
「…当たり前だろ。今更何を言ってやがる」
嬉しそうに微笑む陽菜を見て土方は満足気に笑った。…すると急に眠気がおそってきた。
「土方さん、眠ってください。後片付けは私がやっておきますから」
「いや、お前も寝ろ。片付けは明日全員でだ」
「…はい」
陽菜の頭を撫で、頬を撫で、土方はパタッと畳に倒れた。
「ちゃんと、自分の部屋で…寝ろ…よ……」
眠りに落ちた土方の横顔を陽菜は見つめる。
胸が温かくなる。優しい瞳で、強い腕に抱かれるように、陽菜は守られている。守ってくれるのは土方であり、真選組みんなだ。
嬉しい。愛おしい。この場所にずっといたい。
土方の頬を指先で触れる。
この人の傍にいたい。そう、想った。
甘い蜜に浸るように
翌朝。真撰組屯所に二日酔いした奴らの断末魔の叫びが響いたのは言うまでもない。