チルチルと小鳥が愛らしく鳴く声がする、そんな清々しい朝。蜂蜜色の髪をした少年がバズーカを構えてただずんでいた。
少年…沖田総悟は土方十四郎の部屋に勢いよくバズーカを放つ。
「死ね土方ァァァア!!!!」
どごぉぉぉんッ…!!!!
爆音が真選組屯所に響く。そして聞こえる怒鳴り声。
「総悟ォォォオ!!!!」
「ちっ、生きてやがったか」
沖田は悔しそうに舌打ちをする。
「テメェは朝っぱらから何してくれてんだッ!」
「何ってわざわざ起こしてあげたんでィ。感謝されることはあっても怒鳴られる筋合いはありやせん」
「危うく永遠に眠るところだったよ!」
「死ね」という単語を放っておきながら飄々とした態度の沖田に土方は噛み付かんばかりに叫ぶ。
「沖田さん」
パタパタと軽い足音と共に陽菜がやって来た。
「おぅ、陽菜。土方さん起こしてやったぜィ」
土方を起こそうとした陽菜に自分が起こすと沖田がかって出たのがことの次第だった。
「ありがとうございます。…あの、さっきの爆音は…?」
「土方さんがなかなか起きなくてねェ」
「お前俺を起こす気全然なかっただろ!」
そのかけ合いを見て陽菜はくすくすと笑う。
「土方さんと沖田さんって本当に仲がよろしいんですね」
「なんでそうなるんだ」
「陽菜、やめてくだせェ。吐き気がしやす」
「んだとテメェ!」
乱闘を始めた二人。陽菜は巻き込まれる前に山崎によって安全なところへ連れて行かれた。
「いけ、『ひじかた』。俺のために身を削って戦え。…うぉ、『ひじかた』弱ッ。あ、『ひじかた』死んだ。めんどくせェから『ひじかた』生きかえらすのやめたァ。くたばっとけェ『ひじかた』」
「うるせェェェエ!!!!」
土方が投げた文鎮を沖田は涼しい顔でキャッチする。
「いきなりなんでィ」
「人の部屋に勝手居座って不愉快なゲームしてるんじゃねぇ!お前仕事はどうした!?」
「俺には魔王を倒すという重大な役目があるんでィ」
「ゲームの話しだろうが!堂々と仕事サボってるんじゃねェ!」
土方は書類まみれの自分の机をドンッと叩く。なんで今日は朝からからんでくるんだ、と土方は舌打ちをする。
「仕事ばかりで大変ですねェ」
「仕事をまったくやらない奴がいるから俺の仕事が増えてくんだよ」
「へェ、それは困った奴がいたもんでさァ」
「お前のことだよお前の!」
沖田は大袈裟にため息をつき肩を竦める。
「土方さん」
「…なんだ」
いつになく真剣な沖田の瞳に土方は少し驚く。体ごと沖田に向かい合う。
「陽菜とのデートは楽しかったですかィ?」
「デートだぁ?」
土方は眉をひそめる。
「いったい何のことだ?」
「すっとぼけても無駄でィ。この前陽菜と出かけたじゃないですかィ。あれをデートと言わず何て言うんです?屯所の全員が知ってまっさァ」
土方は酢を飲んだような顔をした。確かにあれはデートと言われてもしかたがないかもしれない。だが…
「何で全員が知ってるんだ?」
「俺が言いふらしやした」
「テメェ、」
「まぁいいじゃないですかィ」
沖田の飄々とした態度に土方はため息をついた。
「で、お前は何が言いたいんだ?」
書類に目を通しながら土方は沖田に問う。土方は今沖田がどんな表情をしているのか知らない。
沖田は無表情で土方の背中を睨んでいた。その冷たい瞳にあるのは、憎悪。
何も言わない沖田に代わって土方が書類を読む手を止めないまま口を開いた。
「総悟」
「はい?」
「お前は陽菜のことどう思ってるんだ」
意外な言葉に沖田は驚いた。
「俺が陽菜を連れて来た時。永倉を筆頭に反対する奴はたくさんいた。だが、お前は反対しなかった。何故だ?」
沖田が笑う気配を土方は背中越しに感じる。
「それは…多分土方さんが陽菜を連れて来たのと同じ理由でさァ」
土方は呼吸を一瞬だけ忘れた。
「そうか」と呟き土方は立ち上がる。
「例の件について近藤さんと話して来る。総悟。お前も来い」
「あぁ…あの件ですかィ?」
「あぁ」
沖田は肩を竦め、二人は共に土方の部屋を出た。
「まったく尻尾が掴めねェって山崎が言ってやせんでしたかィ?」
「そうだ。たく、めんどくせェ」
沖田がそっと目を細める。
「このこと、陽菜には?」
「言うわけねェだろうが」
土方は瞳孔の開いた目で沖田を睨む。
「いつまでもこの状態じゃあ、バレてしまうかもしやせんかィ?」
「だから急いでるんだろうが」
なるほど、と沖田は頷いた。
「土方さんは陽菜に甘いですねェ」
「お前もな」
言われて沖田は苦笑した。…確かにそうかもしれない。
陽菜の笑い声が中庭から聞こえた。見ると洗濯物を取り込んでいる陽菜とバミントンのラケットを持った山崎が楽しそうに話している。
表情豊かに山崎と話す陽菜はとても楽しそうだった。土方もあまり見たことがない無邪気な笑顔を簡単に浮かべている。
土方の胸中にふつふつと黒い何かが沸き上がる。
「山崎ィィィイ!!!!」
土方は山崎に向かって駆け出した。
「げっ、副長!」
仕事をサボってミントンをしていた山崎は土方に怒られる心あたりがありまくる。顔を青くして逃げ出す。
「待てェェェエ!!!!」
「うわぁぁぁあ!!!!」
そんな二人を見て陽菜はキョトンとした。だが、それから楽しそうに笑う。
「何笑ってるんですかィ」
「あ、沖田さん。…いえ、仲がいいなぁって」
呑気な言葉に沖田は呆れる。
「…あれを見てそう言えるのはアンタだけでさァ」
「そうですか?」
陽菜は不思議そうに首を傾げる。
「沖田さんも土方さんと本当仲良しですよね」
「やめてくだせェ」
沖田は心底嫌そうに顔をしかめた。
「あんな奴、大っ嫌いでさァ」
その笑顔が見たくて
私は死ぬわけにはいけません。
「生きたい」でも「死にたくない」でもなく、「死ぬわけにはいかない」陽菜はそう言った。屹然とした表情はどこか危うげで、遠い昔の誰かと重なった。