(高い…)


がたんごとん、と揺れる車内。私の隣に立ち、吊り革を掴んだ状態で本を読む立海の制服を着た男子を見上げた。
立海はスポーツ名門校として有名だ。彼の右肩にはテニスカバンがあるため、彼がテニス部だということは案に想像できる。背が高い人はみんなバスケかバレーをやっているイメージがあるが案外そうでもないらしい。


(それにしても高い…)


百五十センチちょっとしかない私と彼が並んで立っている図は父親と子供に見えるかもしれない。…同じ中学生なんだけどな。
本を読む目は閉じられていて寝ているのかな?と思ったが指はスムーズにめくられている。片手で上手にめくるなぁ。つか読むの早いよ。…首疲れた。


上を向いていたため疲れた首を回し、それから正面を向く。窓の外は茜色の町。それでいて窓に映る私達も茜色。どうでもいいけどこの男子かっこいい。座れなくてショックだったけど、むしろラッキーみたいな?イケメン万歳。


ふと思い立ち、背筋を伸ばし顎をひき少し背を伸ばしてみる。しかし距離は縮まらない。この身長の人がもう一人いたら宇宙人捕まえちゃったゴッコができるかもしんない。あ、ぜひ見てみたい。彼に彼と同じぐらいの身長の友達がいたらいいのに。


彼の顔をもう一度盗み見る。吊り革を掴む腕は九十度。いや、九十度より広いかも。自分の吊り革を掴む腕を見てみた。…ほぼ百八十度。がっかりだ。


「ふっ…」


かすかな笑い声が聞こえた。見上げると男子が小さく肩を震わせて笑っていた。


「失敬。つい」


失敬って、今時の中学生が使う言葉なんですか?というか、あれ?今のセリフ私に向かって言ったの?


「えっ、もしかして盗み見してたの気付いていました?」
「気付いていないと思っている様子がおかしかったな」


あ、この人ドSだ。


「何か?」
「っ、なんでもありません!」


か、開眼した!蛇に睨まれた気分だよ!というかこの人私が何考えているか読んだの!?読心術!?スゲェな!


「ええっと、盗み見してすいませんでした」
「いや、面白いものが見れたし別に構わない」
「…そうですか」


とっつきにくそうな人だ。とりあえずせっかくなので会話の糸口を捜す。


「なんの本を読んでるんですか?」
「泉鏡花の『歌行燈』だ」
「ああ、ちっとも分かりません」
「…そうか」


会話終了。……切ねぇ…。


「えっと、背高いですね。何センチあるんですか?」
「百八十一センチだ」
「高っ!?滅多にいませんよ、中学生でそんだけある人」
「そうでもない。俺の友人にも百八十ある奴はいる」
「マジですか。その人と小さい人と三人で宇宙人捕まえちゃったゴッコとかやりません?」
「…やらないな」
「ええ〜、そこはやりましょうよ!」
「そもそもなんだそれは」
「背の低い人が高い人に挟まれて手を繋がれてぶら下がるやつです」
「…子供が父親と母親の手を掴んでやるあれか?」
「そうとも言います」
「なんでそれが宇宙人捕まえちゃったゴッコなどというものになるんだ」
「…さあ?」


おお、今度は会話が上手くいった。激しく変な会話だけど。目の前で座っているOLのお姉さん肩を震わせて笑っているけど。


それから何個か話題をふり会話を続けた。返事はそっけないけど、無視することはなくて、本は開いたままのだけどページがめくられることはなかった。それが、嬉しかった。


「どの駅で降りるんですか?」
「次の次だ」
「私、その次です」
「そうか」
「いつもこの時間の電車なんですか?」
「たいがいはな」
「私もです」
「…そうか」
「また会えたらいいですね」
「……そうだな」


口元を緩めて笑うものだから、キュンッとなった。ドキドキドキドキ。心臓が鳴る。


どうやら私も宇宙人みたいに捕まってしまったらしい。







宇宙人発見



「うたあんこ、今度読んでみますね」
「『うたあんどん』だ」



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