村が襲われた。
いくつもあがる悲鳴。何かが焼けた臭い。唯一生き残った私は呆然と荒れた村の中にいた。
そんな私の前にその人は現れた。
ここで何をしている、とその人は表情のない綺麗な顔で私に問うた。何も、と私は答えた。
これからどうするつもりだ、とその人はやっぱり無表情で私に問うた。私はどうもしない、と答えた。
「憎くはないか?」
その人は私に問う。質問されてばっかりだなと思い笑おうとしたけど、失敗した。
「お前の村をこんなめに合わせた奴らに復讐をしようと思わないか?」
復讐…?
確かに両親や友達を殺されたその恨みは当然ある。
でも、私は首を横に振った。その人は初めて表情らしい表情を浮かべた。少し苛立ったような表情だった。
「どうしてだ?」
全く理解出来ない。そんな表情だった。
あぁ、この人は誰かを憎んでいるんだ。その憎しみを糧に今を生きているんだ。
そう分かった瞬間、目の前にいるその人がとても憐れに思えた。
「…私は、私のままでいたい」
その人は意味が分からないとでも言うかのように眉を寄せる。
「憎しみを持って生きれば、私は変わってしまう」
「………」
「私は、お父さんやお母さん。友達や…村にいた皆が愛してくれた私のままでいたい」
愛してた。愛してくれた。灰となったたくさんの人達。
復讐を望んでいる人はいるかもしれない。でも、それ以上に私の幸せを願ってくれていると思うから。
憎しみよりも愛しさを。そんな心を持った私の大好きな人達だから。
人は私のことを自惚れ者だと笑うだろうか。私は信じているだけだ。私が愛した人達の心を。
「私が私であり続けること。それが、残された私に出来ることだと思うから」
その人はジッと私を見つめた。その表情はまたもや無表情で、何を考えているのか分からなかった。
「…近くの村までお前を連れて行く」
ややあってその人はそう言った。私は首を傾げる。
「どうして?」
私のその言葉をその人はどう受け取ったのだろう?その人は眉を垂らして困ったように笑った。
「俺もそのままのお前であって欲しいから」
よく意味が分からなかったけど、嬉しことを言われたのだと勝手に解釈して「ありがとう」と言った。
その人は苦笑して私に向かって手を伸ばした。
そのままの君で
俺は復讐者だ。
俺の傍にいたらお前も俺と同じ道を辿るだろう。
澄み切ったその綺麗な瞳が陰るところなど、見たくない。
そう言うその人の瞳は哀しみの色をたたえていた。