星の近い場所が昔から好きだった。手を伸ばせば星に手が届くと信じていたあの頃。無邪気で純粋だったあの頃。白い手を必死に伸ばした。
いくつもの忍を殺した血塗られた手をあの頃のように伸ばす。
何故だろう?
あの頃よりも体は大きくなっているのに星が遠くに感じる。
ふと、慣れた気配を感じ伸ばしていた手を下ろした。
「カカシ、何か用?」
振り返らずに名前を呼ぶと、フッと笑う気配を背中で感じた。
「いやぁ、こんな夜遅くにこんな場所で何しているのかなぁって」
「明日の戦を前に感傷に浸りたくなり星空を見ているのですが何か?」
「…正直ね、お前」
「悪い?」
からかわれるぐらいなら自分で言ってやる。カカシがつまらなさそうにしている。ふっ、ざまあ見ろ。
カカシは私の横に並び同じように星空を見上げた。
「綺麗だねぇ」
「ねぇ、カカシ。星取って来て」
「…お前って、そんな可愛いらしい性格でだったっけ?」
「あれ、知らなかったの?」
にっこり笑ってやるとカカシは軽く頬をひきつらせた。
「早く取って来てよ」
「無理だって」
「カカシなら出来る。私は信じてる」
「信じるな、そんなもん」
なんて心の狭い男だ。子供っぽく頬を膨らませてみせるとカカシが冷たい目を向けて来た。
「お前どうしたの?今日、一段と変だよ」
「私がいつも変だとでも言いたいような口ぶりね」
「え?自覚ないの?」
うわぁ、ムカつく。この笑顔がムカつく。からかったお返しってか?本当に心の狭い男。
「カカシ〜」
「ん?」
「死なないでね」
「…何サラリと物騒なこと言ってんの」
「だって明日戦だし。私とアンタ、隊が違うから私アンタのこと守ってやれないし」
「お前に守られるほどオレは落ちぶれちゃいないよ」
人の親切をなんだと思ってるんだコイツは。
あ、とカカシが小さい声をあげる。
「流れ星」
「え?嘘どこどこ?」
慌てて夜空を見渡すけど、流れ星はもう過ぎ去った後だった。
「う〜、見たかったなぁ」
「願い事でもあったの?」
「うん」
「当ててやろうか」
えっ?と思ってカカシを見るとカカシは穏やかな目で私を見ていた。
「戦が早く終わりますように、だろ?お前の願い事」
見事に当てられ私は苦笑する他なかった。
「よく分かったね」
「オレも同じ事を願っているからね」
「…そっか」
多分私達だけじゃない。皆がそう願っている。
私は目線を星空へ戻した。
「ねぇ、カカシ。戦が終ったら何したい?」
「…笑うなよ?」
え、意外だ。コイツのことだから何も考えてないって思ってたのに。しかも顔が真剣だ。
「オレ、先生やろっかなぁって」
予想外の言葉に私はキョトンとしてしまった。
「先生?」
「そう」
「カカシが?」
「そう」
カカシはそっぽを向いて答える。ガラしもなく照れているらしい。
カカシが先生かぁ…。
「案外似合ってるんじゃない?アンタ基本面倒見がいいし、後輩からもよく慕われているしね」
言うとカカシは嬉しそうに目を細めた。可愛いじゃないか、オイ。
「お前は?」
「私?私はとりあえずカカシに告白する」
「へぇ〜。そりゃがんば…れ…?」
私の言葉を理解したカカシがゆっくりと目を見開く。私はなんでもないような顔を努めて作る。
「まぁ、そう言う訳だから死なないでね」
明るく言って私はカカシに背中を向けて歩き出した。正直、カカシの反応が怖かった。
明日、もしかしたら私は死ぬかもしれない。だからカカシに私の気持ちを伝えたかった。
「なぁ」
「…何?」
足を止め、私は振り返らずに返事を返す。
「オレもお前に告白したいからさ、お前も絶対死ぬなよ」
「…っ」
優しくて温かい声に涙が出そうになった。それをグッと堪え笑顔を浮かべ、顔だけ振り返る。
「任せといてっ!」
その先の未来
どれだけ手が血塗られても。
流れ星に願い事が言えなくても。
私達は未来を信じて突き進む。