日が沈むのがだいぶ早くなった空を見つめ、白石は誰もいない教室で一人座っていた。
窓側の一番後ろの席、そこはうちの席や。アンタは廊下側やろ?ほら、忘れた教科書取りたいからそこどいて。
綺麗な顔に哀愁を漂わせた白石はそんな軽口さえ言わせようとはしてくれなかった。


私の足音に気付いた白石はゆっくりとこっちを向き目尻を垂れ力無く笑う。


「自分か。すまんな、席借りとるで」
「…見れば分かる」
「はは、そうやな」


その表情から人を拒絶するような色が見えなかったのでうちはスタスタと歩き、白石が座っている前の席に白石には背中を見せて座る。


「…なあ」
「何?」


背中から声をかけられる。アンタのことを心配してる、やなんてそんなオーラを振り撒くのが嫌やったさかいうちは努めて感情を殺し答えた。


「夏、終わったんやな」
「………」
「あっという間やった」


テニス部に入っとる白石は全国大会へ行き準決勝まで進んだ。準決勝で、負けた。中三の夏。中学最後の夏。


振り返ると白石は一筋の涙を流していた。白石は恥ずかしそうに笑い涙を拭う。そんな姿に胸がぎゅうっと締め付けられる。


「…夏は終わったけど」
「おん」


慰めの言葉を必死に捜すうちを白石は優しい瞳で待っている。心が弱っている時、気休めでもいいから誰かに慰めの言葉が欲しい時がある。白石は今その心情なんや。


「夏は終わったけど、また、夏は来るで」


何を言っているんやうちは。あたり前やん。自分から出た陳腐なセリフに恥ずかしくなる。穴があったら入りたい。やけど、白石が「そうやな」って優しく笑ってくれるから幾分か救われる。


「また来年」
「おん」
「…来年こそ、カブリエラは夏を越せるはずや」
「お…ん……?」


…………
……………………はっ??


「…何?」
「ん?」
「カブリエラって、何?」


白石は、ああっと爽やかに笑いカブトムシやカブトムシっとこれまた爽やかに言い放つ。


「あー、カブトムシやからカブリエラ?」
「そうやで」
「あっはっは、なるほどなるほど」


これは何か。ツッコミ待ちなのか?うちは試されてるんか…!?
そんなうちの胸中の葛藤など露知らず白石は寂しそうに笑う。


「昨日な、カブリエラが死んでしもてん。今年こそ夏を越すことができる、そう思ったんやかどな」


いやいやいや、無理だろ。カブトムシだろ?何期待してんだよ。無茶言うなよ。カブトムシだろ?夏の昆虫だろ?夏の風物詩だろ?カブトムシに何を求めてるんだコイツは。


「…え?と言うか、え?アンタ、カブトムシが死んだから夏が終わったんだな、って感傷に浸ってん?」
「そうやけど?」
「しばいていい?」
「は?」
「つか、しばく」
「ちょっ、自分なんで怒ってんの!?怖いで!?」
「うるさい黙れ心配して損した白石のアホー!!」
「いだっ!角は、教科書の角はやめい!」








夏の終わり



季節巡り命が一つ消えまた新たな命生まれる。その繰り返し。




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