最近お気に入りのバンドの着信音が騒がしく鳴った。時刻は夜の9時を少し回った頃。携帯のディスプレイを見ると今席が隣の苗字だった。明るくて人懐っこい性格でいじりがいがある女子で、趣味が似ているためか会話が弾む。休み時間もよく話す仲だ。よい友達の関係だが、赤也は密かに苗字を想っていた。
電話がかかってくるなど初めてのことで、何だろうと少しドキドキしながら電話にでる。


「もしもし?」
『もしもし切原!?明日の英語宿題あたしらがあたるって!!』
「はあぁ!?」


赤也は驚き叫ぶが頭の片隅の冷静な部分では今日真田副部長が言っていた寝耳に水とはこういうことか!と納得していた。…いや、今はそんな呑気なことを言っている事態じゃない。


「なんでだよ!どこから回ってきた情報だよ!」
『今日、委員長が山センに聞いたって…』
「っ、あのハゲ〜!」


山センというのは英語の教師のあだ名だ。英語が出来る生徒と出来ない生徒への扱いが違い、授業中出来ない生徒に問題を当て戸惑う姿を見て楽しみ、気が済んだら出来のよいお気に入りの生徒を当てるのだ。かつ、脂っこい顔と薄い頭なため生徒からは嫌われている。
英語の出来がよくない二人は山センの生徒いびりの被害者だった。


「どーすんだよ!?」
『…ふふふ。切原、あたしを誰だと思ってるの?』


どっかの漫画のセリフのような勿体振った言い回しにイラッとしなかったと言えば嘘になるが、赤也はセリフの含みを正確に読みとった。


「まさか…!」


期待で声も弾む。


『そう!委員長から宿題の答え教えてもらいました!!』
「でかした!!」


携帯を持っていない右手でガッツポーズを作る。それから苗字を手放しに誉めた。明日の英語の授業は1限目。朝練がある赤也はノートを見せてもらう余裕などない。電話をわざわざしてきてもらえたのは本当に有り難かった。


「お前いいやつすぎるだろ!今ならお前が天使に見える!」
『今ならって何よー。いつでも天使でしょ?』
「ぶっ、いやいやないない。天使は口を空けていびきをかきながら寝たりなんかしねぇよ」
『っ…!?う、うるさい切原のバカ!見てんじゃないわよ!電話切ってやる!』
「ああああっ!悪ぃ!冗談だって!寝てるお前が可愛かったからつい、」
『なななな、何を言うのよ切原のバカ!』
「わ、悪ぃ!口が滑った!」
『それはそれでどういう意味!?』
「いや、その…!」


口が滑ってつい本音が出たってことだよ!とはさすがに言えず黙る。顔が熱い。これ以上この会話を続けてはいけない。そう思ったのは相手も同じらしく、わざとらしい咳ばらいの後「ほら、言うから書く物用意!」と続けた。


「おう!」


威勢よく返事をしたものの、動揺はまだ残っていて机に向かう途中積んであったマンガに躓き情けない悲鳴が出る。心配してくれる声に平気平気と答えながらカバンから英語のテキストとルーズリーフを取り出し、机に転がってるシャーペンを掴みイスに座る。


「準備オッケー!」
『よし!ならいくよ?えっと、72ページの…』


談笑を加えながらテキストやルーズリーフに答えや和訳を書いてゆく。


『…と、なるんだって』
「……よし!書けた!」
『大丈夫?分からないとこなかった?』
「おう!マジでありがとな!」
『いえいえ〜。これで明日山センを驚かせてやれるね!』
「だな!」


それからくだらない話しをたくさんした。クラスの誰が誰のことが好き。山センや他の教師のこと。小学生の給食。小学生の時どんな遊びをしたか。部活のこと。先輩のこと。話題はつきなかった。


話しが一段落ついたところで、苗字は「じゃあ、そろそろ切るね」と言った。名残惜しい。もっと話していたい。そう思いながらも赤也は「おう」と応じた。


『また明日ね』
「明日な」
『………』
「………」
『………』
「……?」


不思議な間があった。どうした?赤也が口を開くより前に、


『切原、おめでとう』


ぶちっ。ツー…ツー…


………。
…なんだ?赤也は訝しかしげに眉を寄せ、携帯を耳から話した。ディスプレイを見て「あっ」と声をあげる。


09/25/00:00


笑いが込み上げてきた。頭を腕で覆い、くくっと喉を鳴らす。
9月25日。赤也の誕生日。
携帯の画面が光り、友達や先輩から祝いメールがくる。
着たメールは開かず、携帯を閉じ額に当てる。耳に残っているのは電話越しで少しかすれた恥ずかしそうな祝いの言葉。あの間は日付が変わるのを待っていたのか。そう思うといじらしくて堪らなかった。


「…好きなやつに一番に祝われるって、嬉しいな」


ぽそっ、と呟く。口元には微。
電話の向こうの相手は今どうしているだろう。恥ずかしくて顔を赤くしているかもしれない。


好きだ、そう思った。


せっかくの誕生日だ。明日会ったら一つ頼み事をしてやろう。自惚れじゃなければ了承してもらえるはずだ。









午前0時のイタズラ電話



なあ、苗字。オレと付き合ってくんない?






企画『天使と悪魔は紙一重』様に提出。
ありがとうございました。




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