あなたは戦に行く前日の夜にだけ、私に会いに来る。
いつも忙しいあなたはなかなか私に会いに来てくれない。それは悲しいけど嬉しいの。あなたが危険な目に合っていないということだから。
あなたに会うと嬉しいけど悲しいの。会えるのはこれが最後かもしれないと思ってしまうから。
「どうしたんだ?」
コンラートは私の瞳を覗き込む。
「どう…とは?」
「泣きそうな顔をしている」
そう言ってからコンラートは顔を自分の手で覆った。
「あたり前…だな」
自重気味に笑いながら言うその声は震えていた。
「すまない。俺は…」
私はコンラートの空いている手を握った。コンラートは顔を覆っていた手を離して私を見る。
「生きて…帰って来て」
ぎこちなく笑うと、コンラートは唇を噛み締めた。
「俺は、君に甘えている」
コンラートの剣を握っているためゴツゴツした大きな手が私の頬に触れる。
「君がいるから、俺は生きて帰って来ようと頑張れるんだ」
こんな私を必要としてくれてる優しい言葉。胸が苦しくなる。この人がいなくなるなんて私には考えられない。
コンラート。あなたがいつも身から離さず大切に持っているその剣が私は大嫌いです。それさえなければ、あなたは危険な目に合わないのに。
剣と私、どっちが大事?と聞いたらあなたは剣だと答えるのでしょう。分かっています。だから、自分から傷付くようなことを聞いたりしません。
私は幸せです。あなたにとって私は最期に会いたい存在なんだから。そこまで想われているんだから。
でも悔しいです。あなたと最期まで一緒にいるのはその剣だから。
「コンラート…」
「何だ?」
私の瞳から涙が零れた。コンラートを好きになってから私は弱くなってしまった。
「抱きしめて…」
コンラートは顔を切なそうに歪め、私を両手で抱きしめてくれた。
「お願い…もっと強く抱きしめて…」
そのまま私を離さないで。ずっと傍にいて。…でもそれは叶わないことだから。
戦が終わり、無事にコンラートが帰って来たとしてもまた戦に行ってしまう。私はずっと喜びと悲しみを繰り返す。ずっと、ずっと。
「朝なんて、来なければいいのに…」
この夜がずっと続けば私は幸せなのに。
コンラートは何も言わず、私を抱きしめる腕に力を込めた。
それでも朝はやってくる
朝、コンラートは眠っている私の額に唇を落として部屋を去った。
一人になった私は少しでも長くコンラートの温もりを感じたくて布団を抱きしめる。
待つことしか出来ない自分が悲しくて、悔しくて。私は涙を流す。