私があげた誕生日プレゼントを見てイタチは露骨に顔をしかめる。


「…なんだ、これは」
「結婚指輪」
「……」


イタチの左手の薬指には私があげたシルバーリング。それがさす意味は言わずもがな。


「何?いやなの?」
「…そういうわけじゃない。だが、こういうものは男が女にやるものだろ?」
「ならイタチは私にくれる?」
「……」
「…なんで目をそらすのかな?イタチは私と結婚するつもりはないのかな?」


笑顔を浮かべて問いかけるとイタチは「いや、その…」と口を開けては閉じる。目を細めジッとそれを見ていると怖ず怖ずと切り出した。


「…結婚というのは」
「うん」
「好いている者同士が人生を共にするという契約だ」
「うん」
「お前は、いいのか?」
「何が?」
「俺と結婚して」


何を言い出すかと思えばこれだ。


「まあ、職業が世界征服を目指している悪組織って時点で夫としての条件は最低ラインかなとか思ったりする」
「…たしかに」
「でしょ?なのに私が嫁になってあげるって言ってるんだから感謝しなさい」


私も暁のメンバーでいわゆる社内恋愛なんだけど、心配事が一つ。暁って寿退社できるのかな?


イタチは指輪を見つめゆっくりと口を開く。


「…俺は」
「うん」
「お前と結婚できない」
「なんで?」


イタチの反応はある程度予想していたから驚いたりせずに聞き返す。俯くイタチの頬を包み無理矢理目線を合わせる。


「罪人だから?」
「……」
「一族殺しの罪人で、抜け忍で、暁のメンバーで…


もうすぐ死ぬから?」


イタチは笑う。自虐的に。寂しそうに。


「そうだ。だからお前は俺が死んだら俺を忘れて幸せに生きろ」


イタチは自分が傷付く言葉を簡単に言う。


「いや」
「……」


顔を近付けイタチを瞳で捕らえる。目をそらすのことなんて許さない。笑ってごまかすことなんて許さない。


「私はイタチを忘れない。ずっと好きでいる。イタチが死んでもイタチを想って、幸せになる」
「…なぜだ」
「イタチが好きだから」


イタチの瞳が揺れる。


「イタチ。残される者が不幸せになるだなんて決めつけないで。私はイタチと離ればなれになることを恐れてイタチを好きなこの気持ちを捨てるつもりはない。…だからイタチも」


私の幸せを願って私を好きになることを諦めないで。


イタチは笑う。呆れたように。


「バカなやつだ」
「バカなやつだからイタチみたいな人を好きになったんじゃない」
「…なるほど」


体を離し頬から手をどけると、逆にイタチに強く抱きしめられた。イタチの背中に手を回し抱きしめ返す。


「この指輪は約束の証。私がイタチをずっと好きでいる、約束」
「それは…最高のプレゼントだな」
「でしょ?」


額を合わせくすくすと笑う。


「いいのか?俺はお前を幸せにできない」
「イタチにしてもらわなくても勝手に幸せになるよ」
「…たくましいな」
「当然」


たくましくなくちゃこれからの運命を受け入れることなんてできない。
傷付きたくない。でも、傷付いてもイタチと一緒にいたい。


「今度、お前の指輪を買いに行くか」
「うん」
「ずっと一緒にいよう」
「うん」
「約束だ」









薬指の束縛



「俺と結婚してくれ」
「はい」




企画『門出』様に提出。
ありがとうございました。



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