「神の子…?」


首を傾げる私を見て幸村は頷きながら部屋いっぱいにあるプレゼントのラッピングをほどく。


「そ、俺のあだ名。このクッキーおいしそだね。食べるかい?」


差し出されたクッキーをもらい、かじりながら私もラッピングをほどく。出てきたのはテニスボールだ。それを見た幸村は「ありがたいね」と言って別のプレゼントをあける。


「…それじゃあ、これは神様への貢ぎ物?」
「フフッ、そうなるのかもね」


出てくるプレゼントはテニスボールやラケットやボールのミニチュアキーホルダーなどテニス関係のものが多い。


「テニス、頑張ってるんだね」
「まあね。そのために立海に入ったんだし。…お前も立海に入ればよかったのに」
「無理だよ。あたし、運動何もできないし、頭も良くないし。第一そんなお金の余裕は我が家にない」
「俺はお前と一緒がよかったのにな」


そんなことを言うなら幸村が公立に来てくれればよかったのに。この一年、何度も浮かんだ思いが言葉にならず消えた。
Jr.大会を優勝し、テニス業界で注目の的で引き手数多だった幸村が普通の公立におさまるはずがなかった。
あたしだって幸村と一緒の学校に行きたかった。でも、金銭的な問題は子供であるあたしたちにはどうしようもない。


あたしの知らないところで知らない幸村が日に日に増えてゆく。学校で幸村に会える子たちが羨ましい。顔も知らないプレゼントの贈り主たちに恨みさえ覚える。


ラッピングをほどくことに飽きたのか、幸村は入っていた手紙を読み始めた。どの手紙も可愛いらしいガラと字で私の中にどす黒い感情が渦巻いてゆく。
私の視線に気が付いた幸村は「読みたいのかい?」と苦笑交じりに聞いてきた。読みたい気持ちと読みたくない気持ちが飛び交うが、結局好奇心が勝った。


手紙の内容はだいたいテニスについてだった。そしてどの手紙も最後は『これからもテニスを頑張ってください』でしめくくられている。
私の汚い感情が爆発しそうになる。


「言われなくても幸村は頑張ってるよ」


思わずこぼれた私の呟きに幸村は笑う。なんで怒ってるのさ、とちゃかしながら。


テニスJr.大会優勝。立海大付属テニス部1年レギュラー。全国大会を優勝に導いた天才。無敗の神の子。


周りは幸村をテニスをとおしてしか見ない。幸村を完璧な選手として期待する。
その目を浴びつづけた幸村は自分にはテニスしかないと言って期待に背かないようにテニスをやる。純粋にテニスが楽しくてやっていたあのキラキラした眼を忘れて。


「卒業した先輩たちに来年も全国大会優勝してくれって言われたんだ。学校側もテニス部に全面的に協力してくれてる。テニス雑誌だって立海に注目しているんだ。頑張って期待に応えないと」


そう言う幸村の瞳は義務感とか使命感とか、そういうモノの色で覆われていた。あたしは悲しくなる。あたしが大好きな幸村はこんな眼をしていなかった。


「幸村は幸村だから、周りを無視して幸村のやりたいことをやればいいと思う」


幸村を見ながらあたしは慎重に言葉を選ぶ。


「…俺は、お前が言っている意味がよく分からないよ。立海優勝に導くことは俺がやりたいことだ。それを叶えたら喜ぶ人がたくさんいる。それだけだよ」


そうじゃない。そうじゃないの。伝えたい気持ちをうまく言葉にできなくて、あたしは唇を噛んで俯く。幸村は困ったように眉を寄せあたしの頭を撫でた。
優しいそぶりの裏にはあたしの言葉を絶対に受け入れない頑なな態度があった。幸村は優しく見えるだけで決して優しくなんかない。でもあたしは、そんな幸村が昔から好きで好きでたまらない。テニスなんかなくていい。幸村が幸村でいてくれたら、あたしはそれでいい。


「…あたしは幸村がテニスをしててもしてなくても大好き」
「フフッ、ありがとう」


幸村は嬉しそうに笑う。あたしの気持ちは多分届いていない。仕方がない。だってあたし自身がこの気持ちを理解しきれてないんだから。
ただ、もし、もしも幸村がテニスに絶望を感じる時がきたその時は、あたしのことを思い出して欲しい。
あたしは幸村に期待なんてしてない。テニスができなくてもいい。幸村が幸村でいてくれたらいい。
ありのままの幸村精市を受け入れ何も期待していないあたしがいることを思い出してほしい。そう、望む。


「ところでさ、まだお前から祝いの言葉を聞いてないんだけど?」


あたしの瞳を覗き込み幸村は楽しそうに笑う。


「そう、だっけ?」
「そうだよ。言ってくれるよね?」


弾んだような声にあたしの口元が緩む。あたしは息を小さく吸い込み幸村が期待する言葉を唇に乗せた。


「幸村、お誕生日おめでとう。そして、生まれてきてくれてありがとう」


その言葉に乗せた想いがいつか幸村に届けばいいと願って。








だからといって、いつも期待に応えなくていいんです。



ありのままのあなたが大好きだから。








企画『神の掌で煌めいて』様に提出。
ありがとうございました。


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