ドキドキドキドキッ。


今日はバレンタインデー。
私は幼なじみである有利にチョコを渡すために有利の家の前で有利が学校から帰って来るのを待ち伏せ中。今日こそ有利に告白して恋人になるんだ…!
肌寒い二月の空の下。マフラーに鼻まで顔をうずめ手をこする。手袋を忘れたのは失敗だった。


ガチャッ―…


「………」
「………」


有利の家のドアが開いた。そこにいたのは有利の兄で私の宿敵、勝利兄。別名ブラコンヤロー。
私を見た勝利兄は一瞬だけ驚いたような顔をし、すぐに顔をしかめた。私がここに立っている理由をすぐに理解したようだ。


「帰れっ!」
「いや!」
「お前なんぞにゆーちゃんは渡さん!」
「うっさいバカ兄!」


このバカ兄はいつもいつも私の恋路を邪魔くる。
ふっ、でも今日の私は一味違う!コイツと遭遇することもちゃんと想定していた私はバカ兄に痛恨を与える言葉をちゃんとねってきていたのだ!


「なんでアンタはバレンタインデーに家にいるのよ!彼女とデートでもしてきたら?まあ、あんたみたいな変態に彼女なんているわけないか。その寂しさを埋めるためにどーせギャルゲーでもしてたんでしょ!」
「くっ…!」


勝利兄は何も言い返してこない。どうやら図星だったようだ。…図星なのかよ……。


「アンタがギャルゲーしようが乙ゲーしようが別に構わないけど有利に変な影響与えないでよね!」
「な、俺がゆーちゃんに悪影響だと言いたいのか!?」
「そうよ!」
「いったいどこが!?それに悪影響ならお前の方がそうだ!」
「はあっ!?私のどこがっ!?」
「どっこもだ!」
「ふざけんなよこの、」
「あの〜」


言い争いがヒートアップしてきた中、遠慮がちな声がかかる。


「有利!」
「ゆーちゃん!」


いつの間にか有利が帰って来ていた。私がカバンからチョコを取り出すより先に勝利兄が有利の腕をひっぱり家の中に引きずり込もうとする。


「外は寒かっただろ〜。さあ、早く暖かい家の中へ入ろう」
「ちょ、なんだよ勝利!?」
「待って!」


慌てて有利の手を掴むと有利は驚いたように目を見開いた。


「お前、いつから外にいるんだ?手、すんげー冷たいぞ?」
「え、うん…」


有利は勝利兄の腕を振り払い両手で私の手を包む。…温かい。体の芯まで凍っていたためか、そのぬくもりが泣きたいぐらい嬉しかった。


「風邪でもひいたらどうするんだ」
「ごめん…。有利に用があって…」
「俺に?」
「うん…」
「そっか。待たせて悪いな」
「私が勝手に待っていたんだから有利が謝る必要はないよ」
「そうだぞゆーちゃん。こんなやつほっといて家に入ろう」
「なんでそうなるんだよ。つか、勝利は関係ないんだから一人で家に入ればいいじゃん」
「うぐっ…」


有利に言われ勝利兄はちらちらとこっちを見ながら家の中へ入る。どうせ窓からこっちの様子を窺ってたりするんだろうけど。


何にせよ邪魔者は消えた。カバンからチョコを出さなくちゃならないんだけど、そのためにはこの手を離さなければならない。手を繋ぐなんて久しぶりですごく嬉しい。離したくない。
私が何も言わないから有利から聞いてきた。


「用ってなんだ?バレンタインデーだからチョコでもくれるのか?」
「う、ん…」


惜しみながら手を離しチョコを取り出す。ピンクのラッピングをした手作りチョコ。渡すと有利は「ありがとう」と私の大好きな笑顔で言った。


言わなくちゃ。好きだって。付き合って。彼女にして。もう、ただの幼なじみは嫌だって。
喉を動かすがそれが言葉になることはなかった。手からぬくもりが消えてゆく。


そっと有利の手が再び私の手を包みこんだ。


びっくりして有利を見ると少し照れたように笑っていた。


「ホワイトデー、何がいい?」
「え…?」
「毎年もらってるけどさ、高校生になってももらえるとは思わなかった。だから、すんげー嬉しい。お礼奮発するよ。何がいい?」


それはどういう意味なんだろう…?
私達は幼なじみ。でも私はもう有利のことを幼なじみじゃなしに好きな人としか見れない。…有利もそうなのかな?私は有利にとって幼なじみ以上の何かであるのかな?


なら、今日慌てて告白しなくてもゆっくり自分たちのペースでやっていけばいいのかな…?


「何もいらないからさ、ホワイトデーの日は私とデートして」
「え?」
「いいでしょ?」


首を傾げて言うと、有利は視線をさ迷わせてから頷いた。私はその反応に満足し、有利の指に自分の指を絡めた。













チョコより甘いぬくもりと約束



「もちろん俺もついて行くからな!」
「バカ言ってんじゃないわよブラコンヤロー!」





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