お昼時。私が働く定食屋はがやがやと賑わう。
「はい、お待ちどうさま」
「ああ」
私が持って来たマヨネーズまみれのカツ丼をその人は平然と食べる。見ているこっちが気分悪い。
「よくそんなもの食べられますよね…」
「何言ってやがる。マヨネーズは最高の調味料だ」
確かにマヨネーズはおいしい。でも、世の中には限度と言うものがあると思う。
「お前も食ってみろよ」
「遠慮しておきます」
この人は土方さん。この定食屋の常連ですっかり顔なじみだ。こんなマヨラーでも真選組の副長を務めているらしい。
私は恨めしそうに土方さんを見る。こっちはカロリーを気にしてマヨネーズをひかえているっていうのに、それをこんなにたくさん…。
土方さんは長身でスタイルがよくて顔もかっこいい。太る様子なんて少しも見せない。なんて羨ましい。
「女の敵め…」
「あ?」
「なんでもありません」
小さく言ったつもりが聞こえてしまったらしい。深く追求される前に逃げよう。
怪訝そうに眉をひそめている土方さんに「ごゆっくり」と言って他のお客さんのもとへと行った。
私は土方さんに恋心を抱いている。
かたや定食屋のバイト。
かたや真選組副長。
釣り合わないのは十分承知。こうやって会って短くても会話をかわせればそれでいい。
土方さんが勘定を置いて立ち上がる。
「ごちそうさん」
「ありがとうございました。またのご来店をお待ちしております」
営業スマイルを浮かべて言うと土方さんの顔が近付いてきた。「え?」と思っていると耳元で囁かれた。
「また来る。お前に会うために」
それって…。
言葉の意味を理解してみるみる赤くなる私を見て土方さんは満足そうに笑い、店から出て行った。
つまりあれですか?土方さんは私に会うためにこの店に来ていたんですか?
「〜〜〜っ」
そんな言葉を囁かれるのはもちろん初めてで、どうしようもなくドキドキして、慣れた感じのあなたを少し恨んだ。
女の敵
そんなあなたに恋をした私はなんてバカなんだろう。