「柳先輩はサンタさんに何をもらうんですか?」


廊下を歩いている最中たまたま聞こえた中学生らしからぬ発言に足を止めた。同じクラスの柳と柳の後輩の切原がいた。
無邪気な笑顔を浮かべる切原とは対照的に柳の顔は彼にしては珍しく眉が垂れて困り顔を浮かべている。切原の質問になんと答えればいいのか考えあぐねているのだろう。


しかしまあ、今時サンタを信じている中学生がいるとは。呆れながらその場を通り過ぎようとするが、それは阻止された。


「あ、苗字先輩!先輩先輩っ!先輩はサンタさんに何をもらうんですか?」
「………」


私はため息をつき二人に近付き、満面の微を浮かべる切原を見上げる。中身は小学生なくせに背だけは高いよな。しゃーない。お姉さんが現実を教えてあげよう。


「切原、あのねサンタさんは」
「苗字」


冷ややかな声が私の名前を呼ぶ。声の主である柳はいつも閉じている目を開眼させ私を見据えていた。その瞳は余計なことを言うな、と語っている。
おいおいおいっ。前に丸井が柳は赤也に甘いとか言っていたけどさ、これほど!?無邪気な少年の夢を潰すのはたしかに私も胸が痛いけど、このままサンタさんを信じ続けたら切原痛い子になるよ!?それでもいいの!?


「……サンタさんはいい子にしかプレゼントをくれないんだよ?」
「大丈夫ッス!俺、チョーいい子ですから!」


にこにこ笑顔な切原。そのまま流してその場を立ち去ればいいものの、ぽろっと私は言ってしまった。


「でも、切原この夏二人病院送りにしたよね?」
「……!?」


目を見開き唇をわなわなと震わす切原。しまった!と思ってももう遅い。
さっきの元気はどこへやら、切原は今にも泣きそうな顔をして挨拶もなしに去って行った。


「苗字…」


静かな怒気を孕んだ声に私は寒気を覚えた。







放課後、帰ろうとした私はテニスコートから怒鳴り声を聞いた。


「赤也!さっきから何をやっているんだ!ちゃんと集中せんか!」
「……すいません」


うわぁ…。切原のやつ部活に支障が出るほど落ち込んでるよ。
尚も言い募ろうとした真田を抑えて幸村くんが切原に笑顔を向ける。ああ、やっぱりイケメンだな幸村くん。笑顔も天使みたい。


「赤也、やる気がないならコートにいても邪魔。走ってこい」


…幸村くん、容赦ねぇ。
切原は「ういッス」と小さく言い走り出した。ふと、柳と目があった。その瞳は「お前のせいだからお前がなんとかしろ」と言っている。アンタどんだけ切原に甘々なんだよ。一日に何度も開眼柳を拝めるなんて…。私、明日あたり死ぬかもな。



私はため息をつき、校門から出てロードワークに行こうとした切原を呼び止めた。


「落ち込んでんの?」
「…俺、サンタさんから新しいモンハンもらうんだって楽しみにしてたんで……」


ゲームかよ。


「やっぱ、二人も病院送りにするようなやつはいい子じゃないッスよね…」
「まあそうだろうね」


正直に言うと切原はますます落ち込む。いや、さすがに「そんなことないよ!」て言える内容じゃないでしょ!


切原は本当に悲しそうな顔をしている。何がそんなに悲しいのか私には分からなかった。


「…私ね、一度もサンタさんからプレゼントもらったことないの」
「え?…ああ、先輩性格悪いですもんねェ」
「絞めるぞ?」
「すいませんでした」


ただたんに母子家庭で母親はクリスマスの日も働いているだけだ。私がいい子だとかそうじゃないとか関係ない。…あ、でも……。


「お父さんが出て行った時は私が悪い子だったからだって自分を責めたりしたな…」


切原が息を飲む。それから申し訳なさそうな、どうしたらいいのか困惑したような表情を浮かべる。…いい子だな、切原は。


「大丈夫だよ」
「え?」
「切原、怪我させたこと反省してるんでしょ?」
「…まあ、うん……」
「反省できるやつはいい子だよ。だから、サンタさん来るよ」


それだけ言い、私はその場から立ち去ろうとする。


「っ、先輩!」


腕を掴まれ無理矢理振り向かされる。そこには真剣な顔をした切原。


「先輩、性格悪いけど本当はいい人だから、サンタさん今年は来ますよ!」
「いや、来ないって」


母は今年のクリスマスもバリバリ仕事です。


「来ます!先輩いい人ですから!暴力的だし口悪いし胸ぺったんこだけど!」
「アンタ、褒めてんの?けなしてんの?それとも喧嘩売ってんの?」
「褒めてます!」
「…ああ、そう」
「だから、お父さんが出て行ったのは先輩のせいなんかじゃありません!」
「………」


何、コイツ。それが言いたかったの?バカじゃないの?それぐらいもう分かってるよ。
なのに…
なんでこんなに嬉しいのかな?


「来て、くれるかな?」
「もちろんッス!」
「切原がそう言うなら、来てくれそうな気がしてきた」


私が笑うとサンタを信じる無邪気な少年も笑う。
私のサンタさんは来ない。夜、一人で過ごし一人で眠る。クリスマスも普通の日もなんら変わらない。今年もそうだろう。


でも、切原にはサンタさん来たよと言おうと思う。そしたら切原はすごく喜ぶだろうから。
…ああ。私は嘘つきだから、サンタさんが来なくてあたりまえだな。







聖なる夜の嘘



Merry X'mas!





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