学校内にある購買は、早くたどり着いた生徒から好きなパンを選べる。
なら、もし自分のクラスが購買から一番離れた場所だったら?
もし自分の好きなパンが十個しかない限定の焼きそばパンだったら?
もし同じクラスに焼きそばパン好きがもう一人いたら?
『うおぉぉぉお!!!!』
四限目終了のベルが鳴るとあたしと総悟は教室を飛び出して走った。先生の声なんて聞いていない!あれは空耳に決まってるっ!
「総悟!今日こそ負けないんだから!」
「何言ってやがるんでィ!今日も焼きそばパンは俺がもらってやらァ!」
「負けるかぁ!」
あたし達が行くと、購買はすでに人で溢れていた。焼きそばパンは…。よしっ、一個だけ残ってる!
あたしは焼きそばパンに向かって腕を伸ばす!が、
「よっしゃぁあ!取った!」
「ああぁぁあ!!」
寸前の所で総悟に取られてしまった。総悟は上機嫌で購買のおばちゃんにお金を払う。
「あたしの焼きそばパン〜」
「これは俺のでィ」
「くっ…」
くそーっ、また負けた!
あたしはカレーパンをかじりながら焼きそばパンを頬張る総悟を睨んだ。あたしに見せ付けるように食べるコイツが憎らしい。
そもそもなんであたしは毎日コイツと仲良く中庭でお昼を食べているんだ。…考えるまでもない。コイツは焼きそばパンを頬張る姿を羨まし気に見るあたしを見て喜んでいるんだ。
カレーパンだっておいしいんだからっ!
「やっぱり焼きそばパンは最高でさァ」
「………」
ガブリッ
その態度にムカついたあたしは総悟が食べている側とは逆側から焼きそばパンに噛り付いた。
へへ〜ん。油断してるから悪いんだ。ざまーみろ。
「ん〜、やっぱり焼きそばパンはおいしい…ねェ…」
あたしは思わず口をつぐんだ。
なんと言うことだ。あの総悟が固まっている。怒って文句を言ってくるって思っていたのに…焼きそばパンをくわえたまま目を見開いて固まってるよ。
なんか激しく申し訳ない気がしてきたじゃないか。
えっと…。
どうすべきか悩んでいると総悟が焼きそばパンを口から離し、手に取ってありえないことを言った。
「もう一口食べやすか?」
…え?
ちょ、何?どうしちゃったの?
内心で戸惑いながらも口には出さない。そんなこと言ったら焼きそばパンもらえなくなるし。
あたしの焼きそばパンへの愛は目の前に起こったありえない現象なんかに負けない。
「…んじゃあ、遠慮なく」
総悟の手にある焼きそばパンに再び噛り付く。すると、総悟もあたしと反対側から噛り付いてきた。
一瞬だけ触れる唇。
「………」
次はあたしが固まる番だった。
えっと…今のは?
ほうけるあたしを見て総悟がニヤリと笑う。
「ごちそうさまでした」
そのまま去って行く総悟。残されたあたしはゆっくりと状況を理解する。
キス、された…?
「〜〜っ!」
顔を真っ赤にしてあたしは叫んだ。
「あたしのファーストキス返せぇぇえ!!」
一瞬の出来事
「ファーストキスは焼きそばパンの味〜」
「うるさーいっ!」