大賢者と呼ばれた当時の僕。彼女はそんな僕の恋人だった。
温かい笑顔を浮かべ、いつも旅立つ僕を見送ってくれた。そして、優しい笑顔で僕を出迎えてくれる。僕にとって彼女は安らぎだった。


彼女が僕にわがままを言ったことなどない。一度だけ彼女に「何か私にして欲しいことはありますか?」と聞いたことがある。
彼女はいつもの柔らかい笑顔で「私はあなたがいつも無事に帰って来てくれる。それだけで十分です」とそう言った。


一年にも及ぶ長い遠出の後、彼女のもとへ帰ると彼女はいなかった。彼女は…死んでいた。


僕は彼女が病に侵されていることも知らなかった。彼女はどんな想いで逝ったんだろう。
傍にいてあげることが出来なかった。いつも寂しい想いをさせていた。それでも彼女は僕に対して笑顔を絶やさなかった。僕達は夫婦ではなかった。僕はいつ彼女に捨てられてもおかしくなかったんだ。でも、彼女はいつも僕を待っていてくれていた。


ごめん。哀しい想いをさせてごめん。今度また会えた時は、僕は決して君を一人にしないから…。




そして僕は記憶を持ったまま生まれ変わり、彼女の魂を持った女性と出会った。


もう寂しい想いをさせないよ。君に無理なんかさせない。君の笑顔が絶えることのない場所を、今度こそ作ろう。僕らは結婚して幸せに過ごした。


けれど、その幸せは呆気なく壊された。僕に前世の記憶があると知った者達が僕を悪魔だと罵りだした。僕は捕まり、火あぶりされた。


体が熱い。息を吸うことが出来ない。そんな苦しみの中聞こえるのは愛おしい人の悲痛な声。


ごめん。また僕は君を一人にするんだね。今度こそは君を幸せに出来ると思ったのに。ごめん…ごめん……。







そして僕は再び記憶を持ったまま生まれ変わった。


何度も彼女と出会い、何度も引き裂かれた。僕は運命の神様を恨むよ。どうして僕らに幸せを与えてくれない?僕らが何をしたっていうんだ。
二人で幸せになりたい。そう願うことは許されないのか?
僕は諦めない。何度でも彼女を愛し、彼女を幸せにする努力をする。
何度だって、何度だって…。







ゆっくりと瞼を上げると視界は歪んでいた。


「村田くん、起きた?」
「ん…。…あれ?」


体を起こし辺りを見回す。夕暮れの光が差し込む教室に僕と、僕にとって大切な魂を持った人はいた。
瞬きをすると瞳にあったものが落ち、視界がクリアになる。彼女は心配そうに僕の顔を覗き込んでいた。


「大丈夫?怖い夢でもみたの?」


どうやら前世の夢を見た僕は寝ながら泣いていたらしい。うわ、恥ずかしいところ見られちゃったな。


「ちょっとね。…悲しい昔の夢を見たんだ」
「そっか…」


彼女は苦しそうに眉を寄せた。他人の痛みを分かってあげられる、そんな優しいところは何度出会っても変わらない。思わず微が零れた。


「村田くん。私に出来ることがあったらなんでも言ってね?」
「…うん、ありがとう」


君が僕を好きになってくれて、僕と幸せになることを望んでくれたその時は…僕と君の魂が歩んで来た道を全て話すよ。世界を越えても僕らは出会ったんだ。そんな僕らの魂の結び付きに感謝しよう。


そして、今度こそ二人で幸せになろう。







長い旅の果て



やっとたどり着いた君との未来。



 

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -