週に一度の買い物がヒカリの唯一外に出れる時だ。しかも監視つき。なんでも逃げられたら困るからだそうで。逃走者が出てもおかしくない場所で働いているという現実からヒカリは目をそらす。
完全に就職先間違えたって。給料高いからってつられるんじゃなかった。うまい話しには裏があるってやつですね、本当に。
「お前バカだろ」
「ぐはっ」
サスケに一刀両断されヒカリは呻く。
「いくら給料がいいからって大蛇丸のような怪しいやつの話しにのるやつがあるか」
「だってだって、私の料理おいしいって言ってくれたしぃ…」
「ふんっ」
思いっきり見下された。ヒカリは頬を膨らます。
「ならなんでサスケ様は大蛇丸様のところにいるんですか?」
「お前には関係ない」
「むー」
そんなつれないところもかっこいい…。とか思いながらヒカリは荷車をひっぱる。
いつもは大蛇丸の指示でマッチョな男たちと一緒なのだが、なんと、今日はサスケが監視役だった。ヒカリは鼻歌でも歌いだしそうなテンションだ。いつもは男たちがひっぱってくれる荷車を今日はひっぱっているから結構辛いけど。サスケは横で我関せずという顔で歩いているだけだ。
でもヒカリに不服はなかった。イケメンが荷車ひいている姿なんて見たくないし。
「でも思ったんですよ。どれだけ給料がよくても外に出れる機会がなかったら意味ないなぁって」
「今外に出てるじゃねーか」
「でもこれは買い出しに来たわけで遊びに来たわけじゃないじゃないですか。だから個人的な買い物とかをするのはどうかと」
「はあ?」
「はい?」
サスケが奇異なものを見る目でこっちを見てくる。鼻で笑われた。
「お前本当にバカだな」
「え、なんでですか」
「少なくとも大蛇丸はんなことを気にしてねぇよ」
「えー…」
眉を寄せて考えてみると、確かに買い出しに行って帰って来るといつも大蛇丸は「早かったわね」と言ってくる。…もしかして、大蛇丸はヒカリが個人的な買い物をして時間がかかることを想定しているのだろうか。
ちらっとサスケを見る。二人っきり。買い物。え、これってデートっぽくない?
「サスケ様!」
「なんだ」
「私、本屋さんに行きたいです!あと服を買いたいです!」
「行けばいいじゃねぇか」
「はい!」
そうとなればさっさと買い出しをすまそう。ヒカリはさっきより軽くなったように感じられる荷台をひいた。
一週間分の食料を買い、本屋で料理本を数冊買い、服も2.3着買ってヒカリはご機嫌だった。団子屋で買ったばかりの本をめくり瞳をキラキラと輝かす。
「…楽しいのか?」
「はい!知らないことがたくさんのっていますから!」
サスケはそれを横目で見ながらお茶をすする。…にがい。
「あ、このあんかけおいしそ〜。野菜をもっと増やして彩りよくしたらいいかな?今日の晩ご飯どうしよう?なーやーむー!サスケ様サスケ様、何か食べたいものありますか?なんでもいいので言ってください!」
「………」
「お菓子でもいいですよ〜」
「……茶」
「へ?ちゃ?……お茶ですか?」
サスケはそっぽを向き歯切れが悪そうに口を開く。
「甘い茶だ。名前は知らない。昔よく飲んでいたのを思い出しただけだ。忘れろ」
「お茶…」
ヒカリは腕を組んで記憶をさぐるが思い当たるものがない。そもそもお茶の知識などほぼゼロに等しい。
そんな姿を見てサスケは眉を寄せる。
「おい、忘れろと言っただろうが」
「いいえ、サスケ様。お茶一つで料理の味や赴きが変わることだってあるんです。でも私ってばお茶の知識が全然ありません。これは料理人としてあるまじきことです!私、これを気にお茶の知識を集めますね!」
拳を握りやる気溢れるヒカリを見てサスケはため息をついた。すくっと立ち上がり荷台の取っ手を持つ。
「サ、サスケ様!いいです私がやります!」
「お前がひっぱっていたら日が暮れる」
「うう…」
たしかに、荷物がたくさん積まれた荷台はヒカリがひっぱっるには無理な重さだった。この団子屋に来るのもしんどかった。
「すいませんお願いします…」
サスケは何も言わずに荷台をひっぱる。その横をヒカリは黙って歩いた。…ちらっとサスケを見てヒカリは衝撃をうける。イケメンは荷台をひっぱろうがイケメンであり、さまになるのですね。
急ににこにこ笑いだしたヒカリをサスケは眉を寄せる。
「なんだ」
「いえ、なんでもありません」
アジトにつくまで、ヒカリは好き勝手に話し、サスケはたまに相槌を打った。ヒカリはずっと笑顔のままだった。
「大蛇丸様、今戻りました」
「そう。楽しかったかしら?」
「え…」
その一言でヒカリは大蛇丸があえてとサスケと二人で買い出しに行かせてくれたのだと悟る。っ、いい人!
「大蛇丸様、今日の晩ご飯期待しといてくださいね!」
「フフ、楽しみにしておくわ」
幸せになる魔法お父さんお母さん。
存外私は今の職場を気に入っているかもしれません。