ナルトはさっきから泣きっぱなしの恋人を見てため息をついた。
「いいかげん泣きやめってばよ」
ボロボロになった服で任務から帰って来るといつもこれだ。大きな瞳からぽろぽろと涙を流す。
心配してくれてんだから有り難く思えよ。シカマルにそう言われた。無事を願って待ってくれている奴がいるていうのは頑張る活力になるが、毎回こうも泣かれると堪らない。木の葉の英雄とまで言われ第四次忍対戦を生き抜いたオレを見くびるな。どんっと構えて待っていろ、と言ってやりたい。
愛されてんな、とキバには言われた。からかいまじりの声に思いっきり「うるせぇ!」と叫んで返した。そんなこと、分かってる。コイツはオレのことをすんげー好きでいてくれている。すんげー大切に思ってくれている。オレもコイツが好きだから嬉しいけど、涙を流すコイツを見ていると憂鬱になってくる。
「ケガならすぐ治ったってばよ」
涙でぐずぐずにした顔で顔を激しく左右に振った後、つっかえながら「そういう意味じゃない」と言いまた泣く。
なんで泣くんだよ。オレは忍なんだ。いつ死んでもおかしくない世界で生きてるんだ。分かってくれよ。なんで分からないんだよ。
「そんなの、分かりたくない」
なんて物分かりの悪いやつだ。呆れて物が言えなかった。
任務に出かけた。危険な任務だ。またケガをするかも知れない。そしたらまたアイツは泣くんだろうな。泣かれるのは嫌だからなるべくケガしねーようにしねーと。
いつも任務の前にアイツのことを考えて、ケガをしたらまたアイツが泣くなってため息をつく。泣かせたくない。笑っていて欲しい。
「ナルト、最近あまり無茶をしなくなったな」
任務の打ち合わせの時、カカシ先生が言った。たしかに、とサクラちゃんとサイが笑う。
「アンタは目を離すといっつも無茶苦茶するからね」
「ナルトも大人になったってことじゃないのかな」
「うるせーぞサイ!」
つかみかかろうとするとカカシ先生に止められて、俺は口を尖らしてそっぽを向く。たく、失礼な話しだってばよ。
無傷で帰って来たオレを見てアイツは安心したように笑う。でもすぐに、よかった、そう言って泣く。なんなんだってばよ。オレがぐしゃぐしゃと頭を撫でてやると、涙を流したまま嬉しそうに笑う。本当に、なんなんだってばよ。
任務に行く途中、道端に咲く小さな花を見つけた。アイツみたいだって思った。
気がつけばいつもアイツのことを考えている。アイツはすぐに泣く。泣き出すとなかなか泣きやまない。でも、同じぐらいすぐ笑う。アイツが笑うとオレもつられて笑う。
ケガをしたオレを見ては泣くくせに、アイツは任務に行くオレを止めることはない。気をつけて、無茶しないでね。そう言って見送る。そう言って、笑う。
任務から帰る日はいつも待っていてくれる。泣きながら手当てをして、温かいメシを食わしてくれる。泣きやんだ後は、花みたいに笑う。
アイツは笑うと可愛いから、なるべく笑っていてほしい。そのためにはオレがケガしないで笑っていればいいんだって、分かった。アイツが待っているから、オレは帰ろうと思う。
オレは、少なくともアイツにとって、オレが大切な存在なんだって、なくてはならない存在なんだって、分かった。
親に愛されて生まれて。
里に忌み嫌われ憎まれて育ち。
多くの仲間を手に入れて。
たった一人の大切な人を見つけ。
そして、やっと、
オレは自分を愛することを知った。
巡り巡って分かったことは
愛してくれる人がいる自分を愛していいんだということ。