まったくひどい人だ。
私の気持ちを知っていながら無視をするなんて。まったくもってひどい人だ。
そんな人を好きな私はバカでしかない。





沖田総悟という人はひどく歪んだ性格をしている。そのうえ剣の腕がたつものだから嫉みを買いやすい。彼と親しめるのは彼をまとめて受け止めけきれる寛容のある温かい人や彼に憎まれ口を叩きながら許してくれる優しい人だけだ。簡単に言えば広い心を持った大人な人。ゆえに年下はおろか歳が近い友人はいなかった。


そんな沖田さんにとって彼は貴重な友人だった。沖田さんの同い年の友人に一番喜んだのはミツバさんだった。姉のそんな様子に沖田さんはここぞとばかりに心外だという態度をとったがそれが強がりだということはすぐに見てとれた。


沖田さんにとって彼は大事な友人だった。剣を持たない彼は彼の才能に嫉妬したりしない。ただただ彼を褒めた。
これと言った特徴や特技を持たない彼は本当は内心で沖田さんを嫉んだり羨んでいたかもしれない。でも、それを表に出すことはなかった。


彼らは友人だった。
かけがえのない友人だった。


しかし、彼は私に恋をして、私は沖田さんに恋をした。


上京する。
沖田さんが言葉少なに言った。
沖田さんが旅立つ姿を私は泣きそうになりながらジッとみつめた。その背中が見えなくなっても、ずっとずっと。


沖田さんが敬愛する人は剣で身をたてるのが夢だった。その人の役に立つことが沖田さんの夢だった。だから沖田さんは上京した。
けど、私は思う。理由の一つに私から逃げるためもあったはずだ。


手紙を書いた。
あなたが好きだと。
返ってきた返事はひどくそっけなく気持ちには答えられないとあった。


手紙を書いた。
私はたとえあなたと出会わなかったとしても彼を選ぶことはないと。
返ってきた返事は彼を褒めたたえたたものであった。


手紙を書いた。
あなたに会いたいと。
返ってきた返事は彼と友人のままでいたいというものであった。


手紙を書いた。
あなたが好きだと。
返ってきた返事は……。





…私は今日、上京する。
見送りの中に彼の姿はない。
私と沖田さんのことを知った彼は歎いただろう。絶望しただろう。


それでも、私たちは願った。









彼が私と沖田さんに会いに来てくれるのは今からずっと先のこと。彼の横には、幸せそうに笑う女の人。そして彼は言うのだ。


彼は僕の親友の沖田総悟だよ、と。


友情(武者小路実篤)
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -