魔族と人間の間に生まれ異端とされてきた少年が愛したのは小さな村に住む人間の少女でした。
幼い頃は一緒に成長していった二人でしたが、魔族の血が流れている彼がある歳を境に成長がとまりました。
彼女は彼が怖くなり、彼と離れ人間の男と結婚をし一人の娘を授かりました。


彼は村を疎遠していました。しかし、彼が偶然村の近くを通った時かつて愛した少女とそっくりな少女と会いました。少女のことが忘れられず彼は何度も会いに行きました。二人は互いに惹かれ合うようになりました。


ある日、彼は少女の母親と会いました。母親はかつて彼が愛した人でした。老いた自分。変わらないかつての想い人。彼女は人間である自分に悔悟と寂寥の念を抱きました。そして、変わらない彼と愛し合う娘に嫉妬しました。彼女は彼に罵声をあびせ、娘にもう会わないように彼に約束させました。
彼は胸の痛みを感じならがらもその約束を守りました。


彼は自分の生を呪ったことなどありませんでした。父と母、兄弟、師、仲間、そして心から忠誠を誓える主君。彼の生涯は大切なモノに満ちていました。
しかし、彼が伴侶を持つことはありませんでした。


やがて、老いた彼は小さな村に足を向けました。どこか見たことがあるその村は、彼を感傷的にさせました。


そこで彼は一人の少女に出会いました。どこか懐かしいその姿に惹かれ、彼はゆっくりと少女に近付きました。


少女は言いました。自分はもうすぐ結婚するのだと。
一番愛した人と結婚できる自分は幸せものだ。彼女の祖母の母、そのまた母は一番愛した人とは一緒になれなかった。愛した人と共に生を歩むことができなかった。彼女は自分の生を呪った。あの世で待つにしては、あまりにも長すぎる。どこまでも側にいられない自分の生を恨まずにはいられない。そう言って彼女は逝ったのだと。


彼女は悲しみ、その悲しみに身を包まれたままこの世を去ったのでした。


彼は自分の生を呪ったことなどありませんでした。しかし、彼は長すぎる自分の生を呪ったことはありました。短すぎる人間の生を呪ったこともありました。魔族と人間は、喜びも悲しみも分かち合う時間が少ないのです。


長く生きる魔族は多くのものを手に入れ、築き、残していきます。長く生きれない人間が残すモノはあまりにも少ない。彼はそう思っていました。
しかし、違ったのです。


短い生を人間は一生懸命に生きます。幸せになるために。賎しい想いをしながらも、一生懸命。そしてそれは、長く生きる魔族よりも輝かしい日々なのです。
その姿は人の心に残り、語り継がれ、消えることはないのです。


彼は長い人生を終えるその直前にそのことを知りました。


彼は少女に問いました。あなたは幸せかどうか。


少女は、微笑み頷きました。


嵐が丘(エミリー・ブランテ)
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