誰よりも優秀で、努力家で、矜持が高くて、負けず嫌いで、寂しい人。伊東鴨太郎という人はそういう人だった。


君といれば安らぐ、本当の僕でいられる。その言葉は嘘ではない。でも、本当でもないって私は知っている。分かっている。


彼が語る夢も、仲間も、信念も、どれもちっぽけ。誰にもいい顔を見せて、本音を隠している。
そんな彼が唯一、憎いと言った相手がいた。
私はその時分かった。彼を救えるのはその人だけなのだと。


そして、彼は大きな野望を持って江戸へ向かった。











夕日が世界を照らす。彼が旅立った日もたしかこんな夕日だった。
名前を呼ばれ、振り返る。そこに鴨太郎がいた。


「ただいま」
「…お帰りなさい」


ひどく満ち足りたその顔に、私は、胸が熱くなる。ああ、彼はやっと……。


「聞いてくれ。僕は、欲しいモノをやっと手に入れることができたんだ」
「そう。やっと、欲しいモノが分かったのね」
「ああ。…君には謝らなければならない。君はずっと傍にいてくれたのに」
「仕方がないわ。だってあなたは…」


武士だもの。


武士だから、一人の女の愛だけじゃ満たされない。戦う場所を、死に場所を求めていたのだ。同じ武士の魂を持つ誰かと。その誰かとの繋がりを。彼は。鴨太郎は。


鴨太郎は体を震わせ、笑った。


「繋がりが、僕はほしかった」
「手に入れたのね」
「ああ」
「そう。よかった」


彼が笑うから私も笑う。


風が吹いた。目をつむり、開けると、そこに鴨太郎はいなかった。


笑顔を貼付けた顔から、涙が零れた。


スノーグース(ポール・ギャリコ)
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