自分を卑下するつもりはない。自分なりに精一杯やっているつもりだ。でも、憧れることだってある。先輩たちのようになりたいと、願う時がある。


先輩たちが引退して、オレが部長になった。正直不安で堪らない。幸村部長のようになれるなんて、ちっとも思わない。部長は、部長たちはオレの目標であって憧れだったから。そんな部長に任された部活だから、一生懸命やりたいと思う。


分からないことがあったから柳先輩に相談しに行った。すると柳先輩は「赤也、すまないがオレはお前の相談にはのれない」と言う。どうしてですかっ!怒鳴るオレに向かって柳先輩は困ったように目尻を垂れたけど、何も言わなかった。
どうすればいいか、頭を抱えていたらどうした?と副部長の藤沢に肩を叩かれた。その後ろには会計の竹内もいる。相談すると、二人は真剣に考えて案を出してくれた。
…ああ、そうか。先輩たちはもういない。いつまでも甘えてられなんかいられない。でも、これからも一緒に歩んで行く仲間がいるんだとオレは気付いた。


真田副部長に練習試合をしてくれと頼むと副部長は顔をしかめ「赤也、お前はオレの相手をしている場合じゃないだろう」と言う。意味が分からなくて勉強で腕がナマってオレに負けるのが怖いんスか?と挑発するようなことを言ったが副部長はため息をつき何も言わなかった。
部活に出ると一年生に呼び止められた。「部長!オレと試合してください!」見上げて来る瞳には憧れと尊敬の色。
…ああ、そうか。オレは先輩で、エースで、部長なんだ。もう先輩たちの後ろを追い駆けるだけじゃなく、後輩たちに追い駆けられる存在なんだとオレは気付いた。


幸村部長にオレは部長みたいになれる気がしないというと部長は穏やかに笑い「赤也、お前はお前らしくやればいい。オレの真似をする必要なんてないんだから」と言う。それでも、部長はオレの憧れですからと言うと微をこくするだけで何も言わなかった。
切原部長、切原部長、そう呼ばれるたびにこそばゆい。オレにとって部長は幸村部長だけなのに。
…ああ、そうか。幸村部長も最初から部長だったわけじゃないんだ。今のオレのように分からないことだって不安なことだってあったのだろうと気付いた。


先輩たちに憧れていた。歳は一つしか変わらないのに、すごく大きな存在に思えてならない。
オレも、誰かにとってそうなのだろうか。…そう、なれたらいい。





「切原部長!」


そう呼ばれるたびにやっぱりむず痒い。それでも、オレは胸をはって応える。


「おう!なんだ!」


よだかの星(宮沢賢治)
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