別に恋愛に興味がないわけじゃない。ただ、「初恋はいつ?」って聞かれたら「ない」って答えるし、「好きなタイプは?」って聞かれたら「分からない」って答える。


同級生やテレビで誰それがかっこいい、とかはちゃんと一般的に持っている。まあ、あたしがかっこいいと言う人はたまたまみんなメガネで、たまたまみんなにっこり笑顔で黒いセリフを言うけど。
断じて腹黒メガネが好きなわけではない。


なんにせよ「男なんて低脳動物よ!」とか高らかに言っている友人や、「あの人かっこいい!キャア、あの人もかっこいい〜!!」と常にハートを飛ばしている友人に比べたら全然あたしはマシだと思う。







「だるい…」


あたしは今学校へ向かっていた。時刻は午後5時を少し回ったあたり。今日提出の課題を家に忘れてしまい、取りに帰って再び学校へ向かっている途中である。


だるい。本当にだるい。でも、忘れた課題は相性が悪い数学。6時までに出さなかったらちょっと怖いことが起こりそうなのでしかたない。


「せめて晴れてたらなぁ…」


そしたらまだ散歩気分で楽しいのに。あいにくと天気は曇り。どんよりとした灰色の雲が青空を隠している。


「今日の晩ご飯何にしよー」


あたしは高校に入学する少し前から一人暮らしをしている。さっき家って言ったけど正しくはマンションだ。
料理はあんまり得意じゃないからずっとコンビニ弁当やインスタントですませてきたんだけど、それを知った友人二人にめちゃんこ怒られた。
それからちょくちょく作ってはみているけど…今日はやめとこ。面倒臭い。学校二往復で疲れたからしかたない、ということで。


ふみっ


「………」


何やら軟らかい物を踏んだ。下を見るとわおっ、そこには長い尻尾が。その尻尾の主はあたしが大っ嫌いな犬。しかもドーベルマン。ご機嫌はナナメな様子。そこに鎖が外れているときた。


「あはっ、あははははっ。ごめんね?」


恐る恐るあたしは足をどけ、ゆっくりとその場を離れようとする。が、恐怖が勝り瞬時に猛ダッシュ!


「バウッ!バウバウッ!!」
「いっやぁぁあ!追ってくんなボケェェエ!!何、この漫画みたいな展開ぃぃぃい!!!!」


とにかく走れ!
自分にそう言い聞かせむちゃくちゃに走る。


「きゃう!」


段差につまずき前ののめりになった体。そこには通学中いつも見る結構大きな川が。


「だからなんなのこの漫画みたいな展開!!?」


そう叫んだのを最後、あたしは川にのまれた。







誰かが笑っている。
楽しそうに、嘲るように。頭の中に笑い声が響く。


―こっちへ来い。
 君の願いを叶えてやろう。


背筋が凍るほど冷たい声だった。怖い。でも、それを自覚したら負けた気になるので見えない誰かに向かって言い返す。


「誰よアンタ!」


返事はこない。


「願いって何?どうしてアンタがあたしの願いを叶えるの?アンタが、あたしの何を知っているのさ!」


だって、そう。


「あたしの願いが叶うわけないんだから」











「……て……起…き…」


ん…?


頭がポーってする。なんか体が揺すられている。欝陶しいなぁ。揺すられなくてもちゃんと起きるから。


「ん〜…」


瞼を上げるとそこには青空が広がっていた。やっぱり青空がいいよねー。暖かいし、昼寝には最適だし。


……待てよ?なんで青空?さっきまであんなに雲ってたのに…。


「…おかしくない?」
「何が?」


ふいにかかった声と視界に入ってきた顔。日本人らしい黒髪黒目。知的な顔立ちにメガネの男の子。
めちゃんこタイプなんですけど…!!


「大丈夫?起きれる?」
「は、はいっ!」


ガバッと上半身を起こすと、男の子はにっこり笑った。や〜ん、笑った顔も素敵!


「僕は村田健。通称ムラケン。君は?」
「紗原アリスです!アリスとお呼びください!ぜひとも呼び捨てで!」


ニコニコしながらムラケン君は「面白い子だねぇ」と笑う。


「アリス。君はどうやってここに来たんだい?」
「いや、その…あははっ」


川へ落ちましたとかそんなかっこ悪いこと言えません。つかどこまで流されたんだあたし。制服はべちょべちょで体に張り付いているし気持ち悪い。ちょっと寒くなってきたし、早く帰ろう。その前に課題!…は、ちゃんと近くにあった。よかったー。でも時間大丈夫かな?


ふと顔を上げ、あたしは絶句した。


テレビに出てきそうなヨーロピアンな建物の中心にあたしはいた。…川、どこにもないんですけど……どうやってあたしここに来たの?つか、ここ日本ですよね?


「ここ、どこっ!!?」







足元にご注意



全ての原因は犬だ!




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