たとえば、そう。
私が強大な力を持つ魔女だったらよかったのに。





そうすれば戦へ行くあなたを助けることができるのに。あなたが傷付かないように守ることができるのに。せめて癒しの術が得意であったら、白の魔女のように傷付いたあなたを癒すことができたのに。
でも私は微々たる魔力しかもたない落ちこぼれ。あなたを守ることも癒すこともできない。





たとえば、そう。
私が悪い魔法をかけられた囚われの姫だったらよかったのに。





そうすれば戦士であるあなたに名誉を与えられたのに。魔力を持たないあなたがこの国で弾かれないような栄光を与えられたのに。せめて私が金の魔女のように美しかったらあなたを飾る花になれたのに。
でも私は一般家庭に生まれた平凡な女。あなたをけなす奴らを調子づかせるだけ。





たとえば、そう。
私があなたから与えられた幸せに報いるだけの力があったら。





そうすればあなたに愛されることに罪悪感を感じることなどないのに。与えられてばかりの私は幸せで、たまにその幸せが怖くなる。せめて私が赤の魔女のように男と毅然と立ち向かう勇気があったらあなたの横に堂々と並べたのに。
でも臆病な私はあなたの後ろに隠れてばかりでそのたびにあなたは少し寂しそうな顔をする。









「君はバカなんだね」


いつも通りの爽やかな笑顔でサラリと言われ私は理解するのに瞬きを三回有した。


「…え、なんで?」


首を傾げるとコンラートは微を濃くした。長い付き合いだから分かる。…彼は怒っている。


「一つ。君は力なんてなくていい。戦場なんかに立たれた日には心配で俺が倒れてしまう。癒しの力なんかなくても俺は君を見ただけで癒されるしね。
二つ。そりゃ、母上に比べたら君は平凡な容姿かもしれないけどそれは比べる相手を間違えている。君は十分可愛い。でもそれを知っているのは俺だけでいいんだよ。それに、もし君が囚われるようなことがあったら俺は何に反しても君を助けに行くよ。絶対だ。
三つ。君は大きな勘違いをしている。俺は君が横で笑ってくれるだけで幸せなんだ。報いとかいらない。笑ってくれ。君が辛そうな顔をすると俺も辛い。…あと、アニシナのようには絶対にならないでくれ」


一気にまくし立て彼は一息をつき「分かったかい?」と問うてくる。
コンラートの言葉をゆっくりと理解し、しだいに顔がほててきた。頬を赤くする私を見てコンラートは重ねて問う。


「分かったかい?」
「分かり…ました……」
「いい子だ」


抱き寄せられ頭にキスを落とされる。大きくて武骨な手が頬を撫で、やわらかい、でもどこか鋭い茶色の瞳が私を射ぬく。


「君は君のままでいいんだよ。だから笑って。俺のお姫様」






たとえば、そう。
彼を守る力がなくても。
彼に恥じぬ美貌がなくても。
彼の横に並ぶ勇気がなくても。
私は幸せなお姫様。


「……はいっ」







姫になるための条件



力でも美貌でも勇気でもない。
愛してくれる王子様がいること。


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -