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窓の外は雨。
あの人はこない。
あの人が忘れて行った少し変わった形のライター。それをつける。
揺れる炎。
そこから見える蜃気楼。
あなたとの思い出。
つけては消し、消してはつける。
とどまらない、揺れる、小さな炎。
あの人はこない。
忙しいあの人に会いたい、だなんてそんなこと言えない。
「あ…」
火柱が散る。
ライターはもうつかない。
もう、つかない。
消えた蜃気楼。
揺れる世界。
あせるあなたの顔。
もう灯らない、かすむ、消えた炎。
――――。
「ん…」
目を開けるとそこにはずっと会いたかったあの人の顔。
「トシ、さん…」
「ああ。目ェ覚めたか」
これは幻?
トシさんは笑う。
「何言ってんだ。本物だよ」
「…なんで?」
「なんでって…。会いに来ちゃダメなのかよ」
「……私に会いたかった?」
「…ああ」
「本当に?」
「…ああ」
「トシさん、顔赤い」
「……うるせー」
私は笑う。トシさんは子供のようなふて腐れた顔を浮かべる。
「トシさん、濡れてるよ」
「外、雨だったからな」
「なのに私に会いにきてくれたの?」
「いけなかったか?」
「ううん、嬉しい」
「そうかよ。……なあ」
「何?」
「お前、屯所に住まねェか?」
「え…?」
突然のことに驚き体を起こす。目の前のトシさんは頭をかき何かを言い淀んでいる。
「なかなか会えねェしさ。だから…結婚、しねェか?」
結婚して屯所で一緒に暮らそう。
それはライターをつけながら願いつづけたこと。
ライターはもうつかない。
炎はつかない。
でも、もういいの。
揺れる、消える、灯る、輝く。
私の心が。
あなたに会えない日は不安で押し潰されそうになる。
揺れる炎の蜃気楼にあなたの背中をあなたとの思い出を見る。
でも、もう、いらない。
だってあなたが傍にいてくれるのだから。
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「トシさん。あたし、幸せになりたい」
「…してやるよ。約束だ」