「総悟のバカ〜!」


イチゴミルクを飲み干しドンッとテーブルに置いて叫ぶ。ここがファミレスであると言うことを無視してあたしは怒りに身を任せたまま愚痴を吐く。


「そりゃ仕事が大変なのは分かるよ!でも本当に大変なの!?近藤さんや土方さんとじゃれあっているようにしか見えないんだけど!」
「まったくだ。税金泥棒もいいとこだよな」
「会うたびに意地悪してくるしさ!あたし彼女なんだからもっと優しくしてくれてもいいと思うの!」
「あのドSはな〜。…あのさ、銀さんと浮気してみるとかどう?」





パフェを食べながらあたしの向かいに座っている銀さんがニッと不敵に笑う。


「浮気って…。あたし総悟一筋なんですけど」
「フリだよフリ。総一郎くんを思いっきり妬かせてやりゃいいんだよ」


銀さんと浮気かぁ…。銀さんは優しいし別にいいかなぁ、って思うけど…。


「…総悟ってヤキモチやくタイプかなぁ?」


なんていうか…。あたしは総悟に愛されてない、かもしれない。銀さんと浮気したらそのまま捨てられそう。…想像したら泣きたくなった。あたしは総悟が大好きだから総悟に捨てられたらもう死んでもいい。


銀さんの提案は、王子様がキスして目覚めさせてくれる保障はないけど毒リンゴを食べてみる?みたいな感じだ。


銀さんは呆れたような顔を浮かべ「総一郎くんもむくわれないなぁ」と呟く。


「まあ、試してみるのもいいんじゃねーの?捨てられた場合はそのまま銀さんがもらってやるから安心しな」


覇気のない言葉の裏に含まれた優しさにあたしは笑う。それはそれでいいかもしれない。銀さんといると楽しいし。


「…じゃあ、銀さんと浮気しちゃおっかなー」
「おう。そのまま銀さんに惚れさせてやるよ」
「本当〜?」


銀さんは優しく目を細めあたしに向かって腕を伸ばす。









ダンッ!!


銀さんの手があたしに触れる前に黒に包まれた腕がテーブルを叩いた。


「総悟…」


そこにいたのは総悟だった。しかも見たことがないほど怒っている。銀さんに冷たい視線を向け総悟は低い声で言う。


「旦那ァ…。悪ふざけもほどほどにしといてくだせェ」
「悪ふざけじゃないって言ったら?」


怒りを現にする総悟に対し、飄々とした態度の銀さん。


「きゃっ」


総悟に腕を引かれあたしは無理矢理立ち上がらされた。そのまま出口へと引っ張られる。


「ちょっと、何なの総悟!」


総悟は無言でこっちを振り向こうともしない。銀さんは楽しそうな笑顔を浮かべひらひらと手を振ってあたし達を見送った。


「総悟!ねぇ、総悟ってば!」


ファミレスを出ても総悟はあたしの腕から手を離さない。足を止めない。こっちを見ない。何だって言うんだ。


「離してっ!」


あたしは力任せに総悟の手を振りほどいた。ピタッと足を止める総悟。


「……かィ?」
「え?」
「旦那のこと、好きなんですかィ?」
「……」


あたしを振り返った総悟の瞳は不安で揺れていた。…もしかして……。


「ヤキモチ…?」


総悟はフイッと顔をそらす。
あたしは胸の中がじわぁ〜と温かくなっていくのを感じた。


なんだ、あたし、ちゃんと愛されてたんだ。


何も言わずに総悟の手を両手で握る。総悟は驚いたようにあたしを見て、それから笑った。


毒リンゴも王子様のキスもいらない。
握り返してくれるこの手があれば、
それでいい。






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