スライド式のドアを開けると花の匂いが広がった。白い部屋生える赤いバラ。そのバラに囲まれるようにして眠る一人の少女。
バラの花が好きだと、幸せそうに笑った少女。重い病気を感じさせずいつも笑っていた。
手術を受けるの。
成功する可能性は20%なんだって。
その言葉さえ少女は笑顔で言った。
「成功するよ」
「…そう、思う?」
「ああ。神の子である俺が言うんだから間違いないよ」
「何、それ」
少女は笑う。花のように。
「幸村くんは退院したら何がしたい?」
「俺はテニスがしたいな」
「テニス!すごいね。幸村くんが試合しているところみたいな。幸村くんって強い?」
「うん」
「即答ちゃうんだ!?」
病院の屋上のベンチで二人は青空を見上げながら話す。
「君は退院したら何がしたい?」
「あたしはね…バラを育てるかな。あたしバラに囲まれて暮らすのが夢なんだ」
「へぇ、それは素敵だね」
「でしょ?なんなら一緒に住む?幸村くんなら大歓迎」
「それってプロポーズ?」
「え、なんでそうなるの?」
「嫌なの?」
「…幸村くんは?」
「俺は君と一緒にいたいかな。君といたら落ち着くんだ。君は?」
「……あたしも、だよ」
「本当?」
「…うん」
「なら決定だね」
「うん!」
少女は手術を受けた。
手術は成功したが、少女の意識が戻ることはなかった。
「まったく、いつまで君はまたせるつもりなんだろうね。いい加減、起きてくれないかな。待ちくたびれたよ。俺をこんなに待たせるなんて、本当君いい度胸だよね」
少女は起きない。笑わない。
「…ねぇ、起きてよ」
寂しいよ。
そっと少女に口づけを落とす。
少女の睫毛が震えた。瞼が上がり、ゆっくりと目を開ける。
「おはよう。お寝坊な俺のお姫様」
少女は笑った。昔と変わらない、花のような顔で。
「待ちくたびれたよ」
「…ごめん、ね」
「本当に。俺との約束を破るなんて許さないよ?」
「…うん」
「………」
「……幸村くん…。待っててくれて、ありがとう」
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繋いだ手。移る温もり。
もう、離さない。