月からの迎えを静かに待つかぐや姫はいったいどのような気持ちだったのだろう。
地上に残りたいとは思わなかったのだろうか?自分の運命を恨んだりしなかったのだろうか?愛する人と供にいたいとは願わなかったのだろうか?


煌々と輝く満月を見ながら昔話の姫と自分を重ね目を閉じた。









私が16歳になったら異国に住む40歳も年上の領主と結婚すること。それは私が生まれ落ちたその時に決まったこと。蝶よ花よと育てられた私に自由などなかった。


だから私は焦がれた。自由に奔放する金髪の忍の少年に。


嫁ぎに行く私の護衛として配属された4人の木の葉の忍。白髪の男。黒髪の少年。珊瑚の色の髪をした少女。そして、金髪の少年。
私よりいくつか年下の子供達は「先生、先生」と白髪の男に甘え、二人の少年が言い合いをしたと思えば一緒に山賊を倒し、そこには絶対的な信頼があった。


ただただ、私は羨ましかった。私には友と呼べる存在はいない。信頼できる者さえもいない。父様の13番目の娘である私の価値は力を持つ者へ嫁ぐこと、ただそれだけ。私はただの外交の道具。同情を向けてくれる者はいても愛を与えてくれる者はいない。
自由な彼らが私は羨ましく、そして憎かった。


困らせてやろう。
それは自分でも愚かな感情だと分かっていた。でも胸に込み上げる嫉妬の炎を消すことなどできなかった。


崖に生えている稀少な花を取って来て。
深海に生えている宝石を実らす木の枝を取って来て。
洞穴に住む炎をはく獣を取って来て。
海に済む竜の首にある宝玉を取って来て。
山頂に済む霊鳥の子安貝を取って来て。


私の無理難題に忍達は飽きれ果て私を避けた。しかし、金髪の少年だけは私の要求に果敢にも挑戦した。


どれだけボロだらけになっても、仲間に止められても、金髪の少年は宝物を取って来てはそれを私に渡しその武勇伝を私に聞かせる。


足を引きずりながら金髪の少年が子安貝を持って来た時、私は耐え切れずその場で泣き伏した。


ごめんなさいごめんなさい。
どれほど謝罪しても私は許されないだろう。でも謝ることしか私はできなかった。


「お前さ、寂しかったんだろ?なんとかしても相手の気を引きたいって気持ち俺も分かるからさ…。だから、泣くな!こんな怪我すぐに治るってばよ!」


金髪の少年の優しさに私の心は救われた。
金髪の少年が仲介に入り、私は黒髪の少年や珊瑚の色の髪をした少女とも会話をした。たくさん話し、笑った。多分、その時の時間は私にとって今まで生きてきた中で一番幸せな時間だった。


彼らと別れる時、私はうまく笑えただろうか?
まったく知らないジジイなんかに嫁ぎたくない。一緒に連れて行って。溢れる感情をうまく隠せただろうか?


私は与えられた部屋から満月を見上げる。明日には婚礼の儀式が執り行われる。私はもう逃げられない。
かぐや姫が羽衣を身に纏い心を捨てたなら私は婚礼衣装を身に纏い心を捨てよう。心を捨てた人形となって生きていこう。そうすれば何も辛くない。今、頬をつたう涙もいずれ枯れる。


どうして帝はかぐや姫を守ってくれなかったのだろう。兵士をやるだけで、帝自身はかぐや姫のもとへ来てくれなかった。帝が来てくれたらかぐや姫が月に帰ることはなかったかもしれないのに。かぐや姫も、本当はそのことを望んでいたかもしれないのに。


煌々と輝く満月。
涙で霞む視界に映ったのは満月に照らされきらめく金髪。私の帝。





「迎えに来たってばよ!」



込み上げる感情のままに、広げられた腕に向かって私は駆け出した。






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