女は踊る。血の海の中で。
赤い靴を履いて。





「随分と洒落た靴履いてんのね、アンタ。戦う前から血がついているみたいだ」


俺の皮肉に女はにっこり笑う。その笑顔にはまだあどけなさが残っていた。


「素敵でしょ?先生にもらったの。お前は強い。戦うために生まれた忍だって。そう言って先生は戦場を歩く靴をくれたの」


女はうっとりとした表情で言う。その先生とやらを心酔しているらしい。俺は弟子を戦う道具としか見ていないセリフに吐き気がした。


女は踊る。そのたびに血がほとばしる。敵が絶命する。
女は踊る。もう、止まらない。


やがて、戦争は終焉を迎えた。


女は踊り場をなくした。


「この靴を履く意味がないわ。私はもう人を殺さなくていいんだもの。…ねえ、私はどうすればいいの?戦うことが私の全てだったの。戦わない私に意味なんてないの。私は、この靴以外に履く靴がないの」


女は赤い靴を脱がない。脱げない。


「これをやるよ」
「そんなの、私には似合わないわ」
「そんなことないさ。赤い靴よりもアンタに似合う」
「…本当?」
「ああ」
「赤い靴を脱いだ私に存在理由なんてあるの?」
「それは今からアンタが見付けなくちゃならない問題だ」


女は不安げな表情を浮かべる。瞳には恐怖があった。師が指し示した道しかこの女は知らない。


でも…
女は手を伸ばした。自分の道を、道標のない道を選ぶことを決めた。


俺が笑うと女も笑う。その笑顔は綺麗な女の微笑みだった。







女は踊る。花咲く場所で。
白い靴を履いて。





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