夕暮れ時、辺りはかぼちゃ色に染まってく。

「ねえねえ、お兄さん」
なあに?
椅子に座っていたボクに首を傾げながら見上げてきた女の子に優しく返事をする。
「とりっくおあとりーと?」
嗚呼今日はハロウィンだったのか、だから今日はよく仲間を見ると思えば、そういうネ。
拙い発音でお菓子を強請る彼女は、黒色のワンピースを身にまとって、寒さのせいか少しだけ鼻を赤くしていた。
「んー何があるかなー?」
「何があるかなーあるかなー」
にこにことお菓子を心待ちにしている女の子にくすりと笑ってしまう。
ポケットに手を入れて、目的の物を探す。
ああ、あったあった。
「はい、これキャンデー。かわいい魔女さん」
包みに入った赤いそれに顔をほころばせた少女はボクにその満面の笑みを向けてくる。
「お兄さんはなんの格好をしてるの?」
ああそっか、この子にはボクはかぼちゃをかぶってるように見えるんだった。
「ジャックオーランタンだよ、知らない?」
「知らない!」
元気のいい返事をしたその少女はポケットから魔女には少し似合わない白いハンカチをボクの隣に広げる。
その上によいしょなんて無邪気な声を出しながら座る。
「天国にも地獄にも行けない、可哀そうな男ダヨ」
「……お兄さん可哀そうなの?」
「そうだよ、ちょーっと悪いことしちゃってね、怒られちゃった。
悪魔さんを騙したら地獄にも天国にも行けなくなっちゃって今はその悪魔さん探してるダヨ」
「そっかあ」
彼女は視線を下に向けて俯く、子供にする話じゃなかったかな……。
「お兄さん、これあげる」
手を突き出した女の子に少し驚きながら、その手の下に手を差し出す。
ぱっと開かれた手から落とされたそれは金貨のチョコレイトだった。
「これは?」
「あのね、コレでね、悪魔さんに許してって頼んで。すっごいおいしいの、それにきらきらしてる!きっと悪魔さんもね好きだと思うの!」
微笑ましいことをいう彼女に笑うと、それが気にいらなかったのか不服そうな顔をする。
「ああ、ごめんネ。ありがとう、頼んでみるよ」
「うん!」
嬉しそうに頷いた彼女を見て、さてと、と呟いて立ち上がる。
辺りを見れば、日は既に沈み暗くなってしまっていた。
「さて、魔女のお嬢さん。もう遅いよ、本当のお化けが出るといけない」
「!」
お化けの言葉に少し、顔をこわばらせた彼女にかしづいて、手を取る。
「なあに、チョコレイトの御礼だよ。ボクが送ってあげる」
こくこくと頷く彼女にうなづき返して、傍らに置いておいたランタンを腕にかけ指を鳴らす。
「わあ」
それに応えるように灯ったランタンの光に目を輝かせる。


少女を送り終えたボクは反対方向に歩き出す。
「ばいばーい!」
後ろで手を振る少女に背を向けて、揺れるランタンの光を頼りに。
どうせ悪魔に会えやしない。ベリッとはがした金貨のチョコレイトを口に放り込む。

「あっま」




ジャック・オー・ランタン。
またはジャックランタン、ジャッコランタン(英:ジャカ・ランタ−ン)は、アイルランドおよびスコットランドに伝わる鬼火のような存在。
名前は “ランタン持ちの男”の意。別名提灯ジャック。
悪賢い遊び人が悪魔を騙し、死んでも地獄に落ちないという契約を取り付けたが、死後、生前の行いの悪さから天国へいくことを拒否され悪魔との契約により地獄に行くこともできず、カブに憑依し安住の地を求めこの世を彷徨い続けている姿。
旅人を迷わせずに道案内をすることもあるという。




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