25時の部屋


我輩はムウマである。名前はなまえ。
主人は言わずと知れたサブウェイマスター、ノボリさん。
まあ私はニャースでもなければ、ニャルマーでもチョロネコでもないわけですが。
最近私はノボリさんのベッドの上で寝ている。モンスターボールに入りたくない私は大概外で寝ているんですが、最近は寒くなってきて、ソファーでタオルなんてものじゃあダメでした。
くしゅんっとノボリさんの前でそんなくしゃみをしてしまったせいで、相変わらずのノボリさんはがしっと私を掴んで自分のコートの中に入れてくれます。コートとノボリさんの腕の中はぬくぬくとしていてついつい眠ってしまい、そのまま就業時間を終了してベッドの中に。そんな感じでin ノボリさんズベッドが数日続いてました。
私自体にはあまり重さもないから、ノボリさんの寝返りにつぶされない様にするだけという簡単なお仕事である。
それは構わない、それはいい。
でもノボリさん、あのですね。その、朝起きるとまるで洋画のカップル、少女漫画の朝チュン展開のように朝起きると横で寝ていたノボリさんが起きていて、私を撫でているのは本当に頼むからやめていただきたい。
朝から整ったお顔が私を見ているというのは心臓に悪い上に、人間だったころなどには経験したことのないそれはもう頭から湯気が出そうなくらいで。
抗議をしてもやめてくれない、ノボリさんにため息を吐いた。毎日毎日そんなことができるほどノボリさんという方は暇ではないのだ。
そういう時間はもう少ししたらきっとまた睡眠時間に回されると思って割り切ろうと私はまたチルット印のふわふわ羽毛蒲団に潜り込んだ。
ノボリさんの体温が心地良いのに、すこし寂しさを感じてしまうのはきっと私の体温が人間のころと少し違うせいなのかもしれない。


なまえと一緒のベッドで寝始めて、二日目でした。
すん。
と鼻を啜るような音が聞こえた気がいたしました。
ぐず、ぐす。
ああ、これは。
わたくしは起こさないようにと気をつけて、起き上がりました。
初めて彼女と出会った時と同じ声だったのです。勿論その正体はなまえでした。
下に敷いてある枕代わりのタオルに流れた涙が吸い取られます。
「なぜ、泣いているんですか」
なまえは自分の前に現れた時から不思議なポケモンであった。
彼女を撫でて泣き止むようにと思いながら、目を閉じました。


ムウマ。よなきポケモン。

そういうことは彼女を捕まえた際に調べておいたので知ってはいたのですが。
しかし、毎日泣いていたのでしょうか。
そのような素振りは見えなかったのですがね……。なまえが泣いているのに気づいて数日経ちましたが、変わらずすすり泣く声が聞こえてきています。
「ふーん、ムウマがねえ」
「なまえでございます」
「あーはいはい」
片割れは無理やり起こしたため、少し苛立ちながらもなまえのことということで、話を聞いてくださいました。
「悲しい夢でも見てるのかな」
「ここのところずっとなのです」
なまえはどんな夢を見ているんでしょう。
結論が出ないままなまえが起きてしまい、わたくし達は出勤することになりました。


いつも通り仕事を終えベッドの上に。
「むう」
「ええ、おやすみなさい」
すでに馴染んできている定位置に着いて、なまえはすやすやと眠りにつきました。


夢の中だと、自覚していました。
ああ、これは夢だ。
場所はライモンの街中だというのに、周りには誰もいないことを不思議に思いつつも、なんともいえない雰囲気に心地良ささえ感じています。
足は何かに引き寄せられるようにギアステーションに向かいます。
線路に下りて、歩いていくと自分の足が何処に向かっているか気付きました。
「なまえ。」
なまえを最初に見つけた場所でした。
そこでは少女が蹲っていました。
「なまえ、ですか?」
違っていても夢なのですからいいでしょう。
まさか自分のポケモンを少女として夢に登場させてしまうなど……。自分の廃人レベルに少し苦笑いをして彼女の元に歩いて行きます。
「なまえ、どうしたんですか」
ぐす。ぐす。
「悲しいことでもありましたか」
ひっく。
彼女の泣き声が地下で響き、広がって行きます。
「なまえ」
彼女はゆっくりと振り向きました。
振り向いた途端少女はわたくしの腰にしがみついて、わんわんと泣き始めます。
わたくしはそういったことに慣れていないものですから、どうしようもなくされるがままです。
「大丈夫ですよ」
何が大丈夫なのか分かりませんね。少女は余裕のないわたくしに少しだけ笑いをもらしたようでした。



「……なんの夢だったんでしょうか」
夢を見ていた自覚はあるのに、内容が思い出せなくて少し残念な気持ちになったような気がしました。
「そうです、なまえ」
脇で寝ている彼女を見れば、すやすやと寝息を立てています。
「今日は泣いてないのですね」
そっと彼女を撫でれば、少しだけ身動ぐ姿に自然と笑ってしまいました。
「むう……」
どうかいい夢を。
H26.06.14

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