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今日も今日とて出勤しているノボリさん達についていく私。勿論構内でもぷわーと浮かんでいた。
ノボリさんの周りにいればパトロール中だとかの言い訳ができる。それに普通のギアステーションではなくバトルサブウェイの中であればポケモンを出している人も少なくない。
構内での人間同士のケンカは人間のころによく見た。それを見つけたらノボリさんや近くの鉄道員さんに知らせるというのが私の今の仕事。もっと言うなら、人間同士でもあるそれはポケモン同士だってないわけじゃない。
「ゲンガー止めろって!!」
「ゲンガ!!」
「やべっ、まもるだ!!」
ゲンガーが暴走したのだろう、それに気づいてちょっと遠くの鉄道員さんのとこへ行こうと高度をあげたところで、何かが体に当たった気がする。その瞬間、ぐらっと体が傾いた。鉄道員さんが私を見て目を見開いている、トトメスさんっぽいな。
インカムに手を伸ばすトトメスさんを最後に私の意識は飛んでしまった。



「なまえー」
「なにー?」
「昨日のドラマ見た?」
「見たよー」
「――くんとオノノクスかっこよかったよねー。あ、課題した?」
「まだーあはは」
私だ、友達もいる。駅前だ。そうか私、スクールに行く途中だ。サンヨウシティのレストランに行く約束してたんだった。



夢を見た。昔の、私が人間だったころの夢。
スクールの課題に困って、おかあさんに怒られて、友達とお弁当を食べて、サンヨウシティで食事をしたり、ライモンで買い物したり。


「起きましたか?」
「むう?」
天井をバックにノボリさんが心配そうに私を覗き込んでいた。
あ、そうだ、私、ムウマになって、ノボリさんに……。頭が覚醒してきた。
あっ。わ、私。
むう!!と声が出てしまい、ノボリさんがどうしました!?と聞いてくるけど、今私にそれを気にする余裕はなかった。
なにか分からないけど何かから逃げたくなって私は部屋の出口へ飛んでいく。
「ムウマ!?どうしたんですか!?」
気づいてしまった。私はさっきまで自分の名前も忘れていた。
大切な私の名前。私の人間だった証。忘れていたその事実を認めたくなくて、怖くなって、私は今の時間電車の通らない線路を辿る。
死にたくなった、なんで私は死ななかったのだろう、いや死んで、なんでムウマになっちゃったんだろう。
また、涙が出てきた。私泣きすぎだよね。ノボリさんから逃げてきちゃった。
追いかけては……くれてない。ううん、私が悪いんだからそれはおかしい。でも……さびしい。
ぼろぼろと涙が出てくる。
さびしい。さびしいよ、涙が止まらなくて、ノボリさんと会う前みたいに啜り泣く。
ひっく。R9行きそびれちゃった、ノボリさん怒ってないかな。怒ってるよ。
私なんで名前、忘れて。ノボリさん。あんなあからさまに逃げちゃって、ただでさえいろいろ面倒みてもらってるのに。寂しい。
頭がぐちゃぐちゃで何もかんがえられなくて。ノボリさん。ごめんなさいって、泣いて。
「まったく」
ノボリさんの声がした……気がした。きっと幻聴だ、私は幻聴を聞いてしまうぐらいノボリさんのこと好きだったんだ。
また涙が出てきちゃって、またうずくまって啜り泣いていたら、体がふわっと浮いた。
「む!?」
抱き上げられたらしい。
「危ないですよ」
赤ちゃんみたいな扱いでぎゅーと抱き締められて、驚く。
「どうかされたんですか?」
いつもと変わらないノボリさんのしかめっ面にまた、泣きたくなった。



さいみんじゅつを食らって倒れた私はトトメスさんによってノボリさんまで運ばれたらしい。ゲンガーとそのトレーナーから謝られた私とノボリさん。その後ノボリさんに心配された。なんにも使えない私にこんなに優しいノボリさん。いつも隣で適当に浮いているだけの私、そうだよ、私ができるのはそれだけ。
いつもは忙しいノボリさんだからあんまり構ってもらえないけど、今日は昨日みたいにまた撫でてくれた。あと、クダリさんにおやつもらった。
撫でてもらいながら私は思った。
私はこの人に名前を呼んでほしい。私の、名前を。
13.01.22

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