『ファミレスなう』


ノボリ遅いなー。
へんなアイコンが<早く着いちゃった^^彼氏待ちなうwwなんて言ってる画面に、「こっちはとっくに一時間以上過ぎてるっての」なんて心の中で愚痴る。
外を走る車を横目に見て、私は冷めかけのグラタンをお冷で口に流しいれた。




ドアを開けるとわたくしを包んでいたゆだるような熱気が涼しい風に吹き飛ばされました。
カランとわたくしが開けたドアについていた鈴が鳴り、ウェイターがこちらにやってくる。
ウェイターに待ち合わせをしていることを告げ、彼女を探す。
退屈そうに携帯を弄る彼女を見つけ、つい足が早くなってしまい、すれ違った男性の集団の一人と危うくぶつかりかける。
「すみません、お待たせいたしました」
そうわたくしが声を掛けると、ぱっと顔をあげ嬉しそうに彼女が口を開きました。
「お疲れさま」
「遅れてしまい申し訳ありません」
「いいよ、仕事大丈夫だった?」
「ええ、おかげさまで。残りはクダリに任せてきました」
「そっか」
わたくしが席につくと、ウェイターがメニューとお冷やを持ってきたため、昼食をと思いオススメと書いてあったパスタを頼みました。
「なまえさまもなにか頼まれては」
「んー……じゃあかき氷、えっとイチゴで」
かしこまりましたと頭を下げて、裏へ戻っていったウェイターをちらりと目で追い、そのまま、お冷やを飲みます。
汗でへばりついた髪をそっと指ですくうと、なまえさまはそれを見ながらそっとハンカチを出してくださいました。
「汗、拭いて」
「ありがとうございます」
額を伝う汗をそのハンカチで拭く。そのハンカチがわたくしが彼女の誕生日に差し上げた物と気付き、つい口角が上がってしまうのがわかります。
「後日洗濯してお返しいたします」
「いやいいよ、べつに」
「ですが、汚いで―」
「このあと、どこか連れていってくれないの」
言外に、そのとき必要になるだろと言いたいようです。
「……わかりました」
「うん」
渋々了承してハンカチを返すとなまえさまは笑いながら、このあとどうする?と聞いてこられました。
「なまえさまの行きたいところへ行きましょう」
「疲れてるよね、やっぱりすぐに家に行こうか」
「平気でございます。わたくしはあなたさまの行きたいところへ行きたいのです」
二時間も待たせてしまい、その上、わたくしの事情ですぐに帰るなどしたいとは塵にも思いません。
今日は午後が半休がとれたため、なまえさまとともにランチをとり、ショッピングなりして、わたくしの家に泊まっていただく予定でした。
しかし、タイミングの悪いトラブルに見回れ、なまえさまに連絡をとり先にランチをとって頂くことになり、職場を出たのは待ち合わせを大幅に過ぎていました。
「うん、じゃあちょっとR9に寄ってノボリの家がいいな」
「わかりました」
一息着き彼女をゆっくりと眺めると、真夏ということもあってなのだろう、手足を惜しげもなくだしたお姿に胸がえぐられる気分でした。このお姿が二時間近く、先ほどの男性達やその他有象無象に見られていたなど考えただけで殺意さえ覚えます。
そこにパスタとかき氷が運ばれてきました。
「いただきます」
そっと手を合わせて食べる。向かいのシャキという氷の音が涼しげに聞こえる。
世話しなく窓の外を通る車や人を横目で見る。
自分で思う以上にお腹が空いていたようで、すぐに食べてしまい、なまえさまを見る。
口を開けてかき氷を食べようとしていたなまえさまがわたくしの視線に気付き、開いていた口を閉じてしまいました。
「……いる?」
「では一口」
「あーん」
「……」
「いらないの?」
首を傾げるなまえさまは可愛らしい限りでございますが、いくらわたくしでも『あーん』は少し気が引けます。
「恥ずかしゅうございます」
「あーいいじゃん、ね?」
そういわれ口を開け、少し乗り出すと口の中に冷たい感覚。
「ありがとうございます」
「んー」
その冷たさも消え、ついついなまえさまに目がいきます。
「もう一口いる?」
わたくしの視線に気づいたなまえさまがわたくしに聞いてきますが、首を横に振ります。
「……ん」
「……」
また二口ほど食べたなまえさまが眉を寄せて上目遣いにわたくしを見ながら、不満そうに口を開きます。
「……恥ずかしいから止めてよ」
「嫌でございます」
「こっち見んな」
「嫌です、あなた様を見ていたいのです」
「もう」
スプーンの動きが早くなった。
シャキ、パク……というサイクルを飽きもせず眺めていると、時折顔を潜めたり赤らめるなまえさま。飽きるはずがありません。
こんなにもいとおしい。
氷の粒がリップを薄く塗られた桃色の唇に当たり、溶けながら彼女の口に飲み込まれる。
赤いシロップに染まる氷を遊ぶようにスプーンで崩す彼女。スプーンが器の底を突く音がお店に響く。元よりなまえさま以外に興味のないわたくしですが、その音以外は全く聞こえないほど静かな店内に、わたくし達以外誰もいないように錯覚してしまいそうです。


カランと硝子とスプーンがぶつかる音にぼんやりとしていた意識がクリアになる。
「お待たせ」
「いえ」
彼女がぺろりと唇の上をかき氷のシロップで染まった舌が撫でる。真っ赤なそれはちらりと誘うように動く。
わたくしは唾を呑むとそのままそっと窓の外へ目を逸らした。



―――――――
きっと夜には頂かれ(殴

戻る


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -