メレメレ 1?日目A


ハラさんが部屋を後にして、手持ち無沙汰になってしまった私は周りをキョロキョロと見回す。お弟子さんたちは時折忙しそうに、でもアローラの土地柄かゆったりと余裕のある動きで働いていた。
何か手伝いの一つでもできればいいのにと伝統工芸っぽい織物や木工細工を眺めていると、ひょこっと現れたのは緑色の髪をした少年だった。この家の子だろうか。
「なー、おれハウ!お姉さん、だれー?」
見たことないやつが家にいる状態なのだけど、人懐っこい笑顔で近寄ってくる。
「なまえって言います、ハウ君は……」
「じいちゃんの孫なんだー」
「じいちゃん、ハラさんのことかな?」
「そー!」
ハウくんはよいしょっと私の隣に座って、きらっきらの目で私を見た。
「なまえ、なまえはポケモン持ってるー?」
「うん、何匹か」
「へー、じゃあなまえもポケモン好きー?」
「うん、好きかな」
ニコーと笑ったハウくんの後ろで、すみませんと言わんばかりに頭を下げたお弟子さんの1人に笑って応える。むしろじっと待っておくのも居心地悪いし助かるくらいだ。
「オレももうちょっとしたらポケモン貰えるんだー」
「へえ」
「そしたら島めぐりに出て、いっぱい旅するんだー」
「島めぐり?」
「あれ、なまえ知らないのー?そのまんまだけど、島をめぐって冒険してーそれからマラサダも食べてー」
もしかするとこれがアローラ流ジム巡りなんだろうか。ちょっとわからないけどオレンジ諸島編みたいなものかもしれない。
「なまえ大人なのに島めぐりしたことないのー?」
わあ純粋な目で純粋な疑問をぶつけられている。どうしよう。
「最近アローラに来たから、ね」
「それで知らなかったんだ! じゃあおれが教えてあげるー」
ハウくんが楽しそうにアローラの話をしてくれている間に時間が経っていたらしく、ほんのりと外が夕焼けの色に染まる直前くらいだった。
「お邪魔します」
と聞き覚えのある声が聞こえてきて、はっとした。
「だれだろー?」
はてなマークを浮かべて、玄関につながる扉の方へ視線を向ける彼と同じようにドアが開くのを待った。
「なまえ、遅くなってすみません」
「イリマさん!」
「じいちゃん!」
ハラさんも一緒に扉の奥から顔を出したイリマさんに、少しだけホッとする。
「ハウの面倒を見てくれていたのですか? 申し訳ありませんな、ご迷惑をかけたのでは?」
「そんなことないですよ、ね、ハウくん」
「なまえにアローラのこと教えてあげてたー」
「もらってましたー」
ここではアローラって挨拶するのが一般的だとか、マラサダが美味しい話とか、お爺ちゃんの話とか。ケケンカニとネッコアラのことも聞くと教えてくれた。
楽しそうに話してくれるものだから、調子に乗って長居してしまっていたと思う。イリマさんがいろって言ったんだけど、私はハラさんとイリマさんがどれだけ仲良いのか知らないし……少し申し訳ない。
「なまえってイリマさんと知り合いなのー?」
「私の師匠です」
「えー!!いいなーいいなー、ポケモンの師匠!?」
「そうだよー、いいでしょー」
ぴょんぴょんと体を揺らして驚く張り切ってハウくんに、微笑ましさとそうだろすごいだろという感情の両方からにやけてしまう。
「なまえ、今日はもうお暇しましょう」
「はい、じゃあハウくんまたねー」
「またねー、今度おれがメレメレ案内してあげるー」
手を振って、ハウくんと別れて玄関までハラさんが見送ってくれるようだった。
「ハラさん、今日はありがとうございました」
「何、このハラ、島キングとしていつでもなまえの助けになりますぞ」
「ありがとうございます、また遊びにきてもいいですか」
「もちろん。少し幼すぎるかもしれませんが、ハウとも仲良くしてくださいますかな」
「はい!」
「それでは、なまえのことありがとうございました。またポケモンバトルよろしくお願いしますね」
「次の勝負ではまた驚かしてくれますでしょうな」
愉快そうに笑うハラさんに頭を下げてから、夕焼けで真っ赤に染まる道をイリマさんに連れられて歩く。
バトルの前に彼が言った言葉を彼は覚えているだろうか。私はそれでもイリマさんのバトルが好きだし、今更撤回するつもりはないんだけど……。
少し考えても、やっぱりあの言葉の真意は見えない。
このたった数日でも、イリマさんが私を放り出したいとか、迷惑だからとかそういう理由であんなことを言ってるわけじゃないことくらいはわかっていた。意を決して、私は口を開いた。
「師匠、今日のバトルもすごかったです!」
少し媚び過ぎたかもしれない。いやでも本心だし。
いきなりそんなことを言い始めた私にイリマさんは驚いて、それからクスッと吹き出すようにはにかんだ。
「ありがとうございます」
「ネッコアラって私よく知らなかったんですけど、あんなに早く動けるんですね」
「バトル中はそうですね、いつもはのんびりしてますよ」
「ちょっとわかる気がする。イリマさんってノーマルタイプが専門なんですか」
「はい! ……そうですね、そういえばポケモンの話はいっぱいしてますけどボクら自身の話はあまりしませんね」
まあそれは私に話せる話があんまりないのもあるけど。
「明日はネッコアラや、ボクのポケモンたちについても教えますね」
「はい!なんならお世話の仕方知りたいです、弟子ですし!」
今日見るだけでもハラさんのとこのお弟子さんたちは色々してたし、いくら理由をつけてもイリマさんに迷惑をかけてることに変わりはない。できることなら、少しくらい何か返したいのだけど。そんな気持ちもあって、少し明るめに提案してみた。
「そうですね、まずはなまえのポケモンたちのことからですけどね」
「あ、そうですよね。はい、了解です……」
返ってきた正論に耳が痛い。ポケモンのこと何にも知らないのに少し調子に乗り過ぎました。
「期待してますね」
「……頑張ります」

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