繋がる


※SV レジェンドルートネタバレ
※短い
※捏造多数


なまえは言葉を失ったように、視線をマフィティフに落とした。
世話をしているからひどいことにはなってないとはいえ、虚な目に汚れた口元、呼吸音も苦しそうで、風呂に入れるのも体力を使うからいつもってわけにはいかない。
それをこんな初めて見る人間に見せなきゃいけないなんて、かわいそうだ。マフィティフは綺麗好きで、元気な時は毛繕いもしょっちゅうしていたんだ。
それなのに、こんな有り様をこいつに見せることになった、ちゃんと世話をしきれていない自分が不甲斐なかった。
静かにオレの話を聞くなまえの目が揺れている。答えにくいだろうと話したオレだってそう思う。
なまえはオレに断ってからマフィティフを撫でて、「スパイス探し頑張るね」と笑って言った。
その日から一変して、なまえは積極的にスパイス探しを始めてくれたみたいだったが、それよりも多かったのが現実的なマフィティフの治療方法の打診だった。
ロトムが鳴いて、なまえからの着信を知らせてくる。
なまえがオレに提案する治療方法はもちろんオレがしたことあるやつがほとんどで、やってみたことあると告げると沈んだ表情を隠すように「そっか」と笑った。時々どこから出してきたのかわからないような方法をオレにどうかなと聞いてきて、試したり、却下したり、そのたびに申し訳なさそうにした。
正直な話少し鬱陶しかった。遠回しにオカルトみたいな本を信じて巻き込んでいるのを責められて気分だった。
『ごめんね、私役に立たなくて』
「気にすんなよ」
『……次は西のヌシポケモンのほうに行くから、その時会おうね』
「気遣い屋ちゃんかよ」
なまえの態度を笑ってみる。なまえも少しだけ解けるように笑ってくる。こんな通話がかかってくる度に、いつマフィティフの容態が悪化するかって不安から救われている。誰かが、オレ以外がマフィティフを助けようとしている、それが不思議で心の底からすくわれた。
三つめのスパイスを食べさせたマフィティフの声を聞いて、オレはなまえに同意を求めるように何度も確認した。頷きながら手放しで喜んでいたそいつは、本当に嬉しそうにしている。サンドイッチの粉を服につけたまま、ハイタッチを求めてくるなまえに気が抜けた。
一通り喜んだ後、なまえははっとしたように不安そうな顔をした。
心配そうに主治医がいるならその人に見せた方がいいと言うなまえは、どこか気まずそうにしている。こんなこと言いたくないと言わんばかりの顔で、こんなにいきなり治るのが心配だというなまえに少しだけ苛立った。
主治医がいないなら自分が探すからと、強く勧めて来るなまえの言葉を拒絶する。
「でも、こんな、なにか体に起こってるかもしれないし」
言いたいことはわかっているけど、オレにとってはむしろ目が見えてることが、マフィティフが元気なことが普通なんだ。何か起こってるのは今で、治ってるはずで、おかしいことなんてないんだ。
普通の医者にはもう見せていた。その時は原因も分からない、直せない。どころか、安楽死させるかを聞いて来る始末だった。スパイスのこともあるし、そんなやつらになんて絶対見せられない。少なくとも5つ目のスパイスを見つけて、食べさせるまでは。
理由を話せば納得はしきれていないようだったが、頷いてくれた。
なまえのこと心配性だって心の底から笑い飛ばせたら、なまえもきっと笑ってくれるのにな。

四つ目のスパイスのサンドイッチを食べたマフィティフはすまなそうに鳴いたが、それ以上変化はなく、嫌な汗が噴き出してくる。
ずっと隣にいた不安が堰を切ったように押し寄せてくる。マフィティフのせいじゃないんだ、オレが、オレが不安そうにしていたらマフィティフも不安になっちまう。そうしたら折角良くなってきてるのに、また前みたいになっちまうかもしれない。
自然と大きくなる手振りが、オレの気持ちとちぐはぐで自分の体なのに変な気分だ。気持ち悪い。誰に言い聞かせているのか、分からないような白々しい声で自信満々に大丈夫だと笑う俺をなまえは見上げた。
「ペパー」
「な、なんだ?」
「絶対大丈夫だよ」
現実的なことばかり言っていたなまえを思い出して、気休めだと思った。思ったけれど、その言葉を否定なんてできるわけなくて、なまえを見下ろした。
オレを見上げる目が揺れて、不安そうで、なんとなくオラチフのころのマフィティフを思い出した。
控えめに引っ掛けるみたいに触れてきた手から熱が伝播する。にがスパイスのサンドイッチを食った時みたいに、いつのまにか冷たくなっていた指先がちゃんとオレの気持ちと噛み合うみたいにゆっくりと曲がって、なまえの手を握った。

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