アップデート要求します


「ロングもいいけど、ショート楽だよねぇ」
友人にそう言われて、長かった髪をばっさりと切った。切ったのはヘアサロンだったけど。それから髪を染めようかと考えて、アンバランスかなって思ってやめた。
「なまえさん、どうしたんですか!」
「別に、なにもないよ」
驚いた顔をしてあたふたとするシトロンくんに、私までびっくりしてしまう。デート前だったから、多分過去1可愛い私だと思ったのに、そんなに驚かれるとは思わなかった。
「でも、女性が髪をそんなに切るなんて」
と言われて、なるほどなるほどとユリーカちゃんに聞いた旅の話を思い出す。
カロスクイーンの座を掛けて、あのエルと戦って良いとこまで行った旅の仲間、その女の子の話だった。
ホウエン地方のコンテストで見事優勝をする"すごく可愛い女の子"を見て嬉しそうにしている2人から、いつか紹介したいと言われた彼女はセレナといって、ショートカットの笑顔の素敵なパフォーマーだ。「もともと髪が長かったんだよー」と話してくれたユリーカちゃんに詳しく聞けば、トライポカロンの最初の1回目の失敗で髪を切って、心機一転。可愛いうえに思いきりも良いみたいだ。
ということで、私が似たように何かショックなことか何かがあったと彼も考えたのだろう。つまり先に心配が来てしまったのだと思うけれど、それが私ではない女の子のせいだと思うと素直には受け取れない。
「似合ってない?」
美容師さんは似合ってると言ってくれたが、美容師さんがいくら似合ってると言っても、シトロンくんが言ってくれないなら意味がない。
ほんのちょっと当て付けにしょんぼりとした表情を浮かべる。
「とてもお似合いです!……あっ、すみません!」
身を乗り出して、食い気味に否定してくれて自然と作ってた表情が緩む。
「うん、ありがと」
「本当に、なにかあったわけではないんですね?」
「うん、全然。むしろ今日はデートだから嬉しいよ」
わざと照れてくれたらいいのにと、意地悪をするつもりで素直に口に出してみる。こうかはばつぐん、ちょっと困ったような顔をして、ほんのり顔が赤くするからいたずらごころがくすぐられる。
「それに何かあったら相談するのは、シトロンくんだよ」
まあポケモンにだって相談はするけど。それはそれ、これはこれ。
「ま、任せてください。なまえさんのお悩みをたちどころに解決するナイスマシン、必ず作ってみせますよ」
ちょっぴりカミカミの言葉も頼もしいって思うから、私もなかなかだけれど。焦って眼鏡をくいっとするのを見て、口角がひくひく釣り上がりそうなのを手で隠す。
「シトロンくんは長いのと、短いのどっちが好き?」
揶揄うつもりで少しニヤニヤして、そう聞いてみる。シトロンくんは照れたように顔を背けてから、また眼鏡を押し上げる動作をする。困ってるのが可愛くて、顔を見てやろうと上機嫌の私は覗き込んだ。それにちょっと気になる。どっちが好きなんだろう。ロングだったらまた頑張ろう。
「……ぼくは、なまえさんであればどちらでも」
そんな言葉言われるなんて思わなくて、情けない悲鳴が出てしまう。
「好きです」
そっと伸ばされた手が短くなった髪に触れて、はにかむみたいに笑われる。
「とってもお似合いです」
きっと私以外に言わない言葉だって解ってしまったから、真っ赤な顔を見られたくなくて手で覆って蹲った。慌てた彼は見当違いに「いきなり髪に触るなんて失礼でしたか!?」なんて言ってるから、もっと慌てれば良いんだ。

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