それはやわらかくて、あまい


アニポケがっつり捏造注意




「手、繋ぎますか」
手を差し出された私のせいだった。岩場で、足元がおぼつかない運動ダメ仲間の私のために、彼が差し出してくれたのだと分かっていた。
いたんだけど、触れようとした手が止まって、血がどくどくと身体中を駆け巡り始めたのがわかる。多分顔が今真っ赤になってる。
大丈夫、触るだけ、私、だって、別に恥ずかしいことじゃないし、親切でやってくれてることだし。
でも、そんな。
私より、多分大きな手。やっぱり、おおきいんだ。
私の顔が赤いことに気付いて、シトロンの顔まで赤くなっていくのが見える。
「ご、ごめん、あの」
「い、いえ、」
あと少し、あと、1センチ……。
「おーい2人とも大丈夫かー!」
「サトシ、だめよ!」
「え、でも怪我したなら助けがいるだろ」
岩場の上に立っているサトシとセレナの会話に、はっとしてしまう。引っ込んでしまったシトロンの手を視線が追うと、やれやれみたいなジェスチャーのユリーカと目が合った。あ、はは。
エイパムアームが伸びてきて、私を持ち上げる。耳まで真っ赤にした彼は俯いていて、どんな表情をしているのかわからない。地面が平らなユリーカのところで下ろしてもらった私はサトシを誤魔化して、また次の町へと足を進めた。
ユリーカがにこにこにやにやしながら、「なまえ、顔真っ赤だよ」と笑う。
「サトシもさすがに気付いたり、はないか」
「うん、ぜーんぜーん」
私たちの後ろを歩いているシトロンを背中越しに意識してしまう。いつもほんのちょっと後ろを歩くことが多い彼は、今どんな顔をしてるのかな。振り向きたいけど、振り向けるほど、今の私まともな顔してない。
ユリーカにもバレないように、そっと、そっと、ほんのちょっと首を後ろにして、背中側を見た。
ばちっ。って音がしたと思う。
眼鏡越しの青い色。目が合って、思わず首を戻してユリーカにバレてないか窺う。デデンネと話してる……よかった。
ほっぺ、ちょっとまだ赤かった。
多分私の方が赤いけど。
首を竦ませて、隠れるみたいに下を向く。
間違えちゃったな、ちゃんと気にしないで手を取ればよかった。旅してるのにこんなの、やっぱ良くないよ。ユリーカだっているのに、こんなの普通見たくないだろうし。
それにあんなに笑顔で手を差し伸べてくれたのに、私のせいだ。
「手、繋ぎますか?」
シトロンの声を思い出す。それだけなのに、うるさい心臓を呪った。
「次の町、見えてきたよ!」
セレナの指差す先には、町並みが小さく見えていた。目の色を変えたサトシがピカチュウと一緒に走っていく。セレナがそれを追って、ユリーカが私の手を掴んで引っ張るように走り出した。それからそれを大変そうにシトロンが追いかける。ユリーカとならこんなに簡単に手を繋げるのになぁ。
握った手がもっと大きかったら、なんて考えは頭から追い出してしまって。



「セレナのバカ」
「まあまあ、買い出し担当そんなに嫌でしたか?」
セレナとユリーカのゴリ押しで、私とシトロンが買い出し担当にされた。旅の間、やっぱりそういうのを求めてしまうんだよね、私もセレナに対してやっている分責められないところがある。
「そういうんじゃあ、ないけどー」
苦笑混じりのシトロンと明日からの食材を買い込んでいく。この前、サトシがバトル10連戦とかしたから傷薬とかも買わなきゃだし。
「ご飯、何にしようか」
「そうですねえ、なまえは何が食べたいですか?」
「久しぶりにお魚、うーん、あ、チーズ食べたい」
「チーズですか」
「この町まで長かったから、日持ちしないものが食べたい」
「そうですね、じゃあチーズフォンデュでもしましょうか」
サトシ、物足りないとか言いそうだなぁと思いつつ、私は私のために言わないでおく。
わりと普通に話せてる。これならきっと大丈夫大丈夫。
町についたのが昼頃でもうそろそろ夕方だ。買い物も終わって、まだ色の変わっていない空を見ながら、ポケモンセンターへの道を歩いていく。
「結構買ったね」
2人で持てる量だから別に大丈夫だけど。
「ええ、もうへとへとです」
「私が持とうか?」
へとへとってジェスチャーをするシトロンに、冗談めかしてそんなことを言う。何気なく出した手を見たシトロンがぴたりと足を止めた。
「ど、どうしたの?疲れた?ほんとに持とうか?」
慌てた私も彼の顔を見て、停止した。
顔、赤い。
彼は私が差し出した方と反対の手を持ち上げて、ハッとしたように着ていたつなぎに擦り付けてから、私の目を見た。
「手、繋ぎませんか」
眉を顰めて、口もへの字になっている顔を見て、差し出された手に自然と手が伸びる。
もう少しで触れる、ってところで無意識だった手が止まる。ばか、もう、
私の手がどうしようって躊躇したのを彼の手が掴んで、心臓が飛び跳ねた。
「ぁ」
小さい悲鳴が喉から漏れる。
ぎゅって、どっちのかもはやわかんない手汗。ひっついた手の平の感覚が、くすぐったい。居心地悪そうに動く指が下手くそに私の手に絡まってて、なんだか少し笑ってしまった。
笑ったらちょっとだけ、余裕が出てきて、掴まれただけでどちらかというと握手みたいな彼の繋ぎ方に仕方ないなぁって気持ちになる。
そっと私からぎゅって繋ぎ直す。ちょっとかっこよかったけど、ね。
これからどうしよう。きっと君も同じこと考えてる。

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