謎の少女にはなれません


※スタイリッシュ度の意味合いがゲームとちょっと違います。(おしゃれ度的な扱い)




「ごめん、迷った」
私は隣でふよふよしているマーイーカに手を合わせた。無言の圧力。
「ごめーんて!まーいーかーって言ってよ!」
つんとした顔で私の周りを旋回した彼は、辺りを見回した。
「ミアレガレットだって、マーイーカが食べたいって言ったんじゃん」
私をガン無視したマーイーカが、ふよふよと路地を通っていく。
「……待っててばー」
少し不満はあるけど置いていくわけにも行かず、後を追う。とりあえずここがこのミアレに四つだか五つだかある広場のうちの一つかなあと思いつつ、辺りの建物に目を凝らす。
「えーと、オトンヌ、ジョーヌ、ローズ、ルージュ、ブルー、ベール、えっ、オトンヌは広場じゃないの?」
マップを見ながら唸る私に「マーイーカ」とひと鳴きしたマーイーカに、よくないしと泣きつく。私の名誉のために言っておくと、他の街でもこんなに迷うことはないんだけれど、ミアレだけはどこかの森より良く迷うのだ。
マーイーカはめんどくせーみたいな顔をして、私の腕から抜け出そうとする。結構ガチの抵抗をされて傷付く。
「どうかいたしましたか?」
混乱状態の私に、のんびりとした柔らかな声が降ってくる。やば、人に見られたと思って、はっとして顔を上げると、この辺ではあまり見ない珍しいピンクの髪に褐色の肌。男の子。
優しそうな形な目と目が合って、瞬き。
「何かお困りなのではないですか?」
「え、あっ!あの!……迷っちゃって、あはは」
なんて間抜けな話だと、私と同じくらいの年齢の彼を見て少し恥じる。苦笑いか、馬鹿にされるのだろうと思っていたのに、目尻をゆるりと細めて「それは大変でしたね」と微笑んだ。
「どちらへ行く予定だったんですか?」
「えっとノース?ストリート?の、このへんの店に」
「なるほど。マップか何かお持ちですか?」
私は持っていたタウンマップを見せながら、ミアレガレットの店の場所を指差す。
「ここなんだけど」
「分かりました」
覗き込んだ彼は頷いて、また私に微笑みかける。
「ボクでよろしければ案内させてください」
その笑顔に目を奪われた私は、グリグリとマーイーカが押してくれたおかげで「お、お願いします」と間抜けな声で言った。
「僕はイリマと言います」
「なまえです、こっちはマーイーカ」
「なまえさんとマーイーカですね、よろしくお願いします」
「よ、よろしくお願いします」
どもりまくる私にしっかりしろとマーイーカが小突いてくるけれど、私だって好きでこんななわけじゃないって。
「マーイーカとなまえさんは仲が良いんですね」
「うん、一応長い付き合いだからね」
仲が良いって言葉にツンデレマーイーカは慌てたように、私の腰についていたモンスターボールに入ってしまった。
「……機嫌損ねてしまいましたか?」
「ううん、私と仲良いって言うと照れちゃうからいつものことなの」
でも二人っきりにはしないで欲しかったな。
「なまえさんがさっきまでいたブルー広場ですね、とりあえずプリズムタワーのほうに向かっています」
「あ、本当だ、見えた」
マップと周りばかり見ていたせいか、上を見れば建物よりも1本飛び出ている一番目立つものを見落としていた。
「ごめんなさい、方向音痴で……」
「案内すると申し出たのはボクの方ですから、気にしないでください」
ピンク色の髪の毛がぴょんと揺れたのを見て、私は引きつりそうな顔を彼のを真似るように、笑顔に変えた。
「イリマくんはミアレの人?」
「いいえ、今はハクダンシティのスクールに留学しているんです」
「……留学?じゃあカロスの人じゃないの?」
「ええ、アローラ地方のメレメレ島がボクの故郷です」
ということは私……。
「違う地方の人に案内されてるのかあ……」
「そうですね」
くすくすと笑うイリマくんにほんの少し恨みを込めた視線を送る。だからイリマくんも私と同じように風景をきょろきょろと見ていたのか。
「イリマくん本当にありがとう、イリマくんも慣れない土地なのに」
「構いません、なまえさんが困っていてボクはちょうど道が分かっただけなので」
私の前を少しだけ早く歩いた彼の背中を見て、こんな人もいるのだなあとそのあとを追うと、開けた場所に出た。
「プリズムタワーだあ」
ようやく大通りに出られて胸を撫で下ろす私に、イリマくんがにこにこと見ている。その顔はやめていただきたいところなのですが。
「メディオプラザに出られたら、あとは簡単ですね」
「うん。あっ、イリマくんはどこか行く用事とかあったのかな?大丈夫?」
「ええ、せっかくのカロス地方ですから、少しずついろんな街を見て回っているんです」
「そっか、ってミアレもしかして初めて?」
「はい!」
私が数回来たことがあるってことは言わないでおこう。悲しすぎる。
「なまえさん、オトンヌアベニューはあちらですよ」
「は、はーい」
言われたそばからこのざまかあ。
「ミアレ、美術館とかあるんだよ」
「ええ、スクールの休みが二日あるので、明日までここで見て回ろうかと」
「あーなるほど。忙しいね」
「そうでもありませんよ、好きでやっていることなので。なまえさんは今日は何が目的でこちらに来たんですか?」
「ミアレガレット!すっごいおいしいよ!」
さくっとした生地とバターの味、ポケモンも食べられる!
「ポケモンも?素晴らしいですね」
ゆっくりとオトンヌアベニューを歩きながら、思いついた話題を投げかけると丁寧に返答が返ってくる。なんだかあんまりない感覚。そろそろオトンヌアベニューを抜けて、ガレット屋にたどり着いてしまう。私は、手を彷徨わせながらソワソワと頭の中で考えていたことを切り出そうと、口を開いた。
「イリマくん、よかったらミアレガレット一緒に食べない?お礼に私が買うから」
初対面の人にこんなナンパみたいなこと、したことないや。心臓がどくどくしているのが分かる。
イリマくんは初めて驚いたような顔をして、また最初みたいににっこり頷いてくれた。
「ほんとう?」
「はい、実は食べてみたいと思っていたんです」
「うん、じゃあ急ごう!15時になったら焼き立てが買えるの!」
「はい!」
二人して少し小走りで、店に急ぐ。良い匂いが外まで漂っていて、お腹がなりそうになる。
「マーイーカ、ミアレガレット買えるよー?」
モンスターボールに向けて声を掛けると、ぽかんと音がしてふよふよとマーイーカが出てくる。
イリマくんもドーブルを連れていたようで、彼の横でキョロキョロと街を見渡している。ハクダンシティに比べるともう少し雰囲気が違うから驚いているように見える。
ミアレガレットを四つ買って、四人で店の前のスペースでみんなに配る。それとおしゃれしてきた甲斐あって、今日は80円で買えた。ちょっと自信がつく。
「マーイーカ、おいしい?」
「マーイーカー」
「熱くない?」
ふーと息を吹きかけたガレットをぱくつくマーイーカに笑いが漏れる。現金なやつめ。
「ドーブルも気に入りましたか」
「ドブッ」
「そうですか」
笑顔でドーブルとガレットを食べる姿に、……ほんのちょっといいな、なんて思ってしまう。自分の好きなものを一緒に食べてくれるその姿に、ぎゅっと心臓の奥が音を立てる。
「イリマくんは?気に入った?」
「はい、とてもおいしいです」
「よかったー」
「なまえさんに会えて、幸運でしたね」
ドーブルに同意を求めるような彼の言い方に、ぎゅっとなった心臓がまた音を立てる。
でもガレットなんて言っても小さいから、食べ終えて立ち上がるまでの時間は短くて、私たちは立ち上がって、向かい合っていた。
「イリマくん、ありがとう。助かりました」
「いえ、こちらこそミアレガレットを教えてくれてありがとうございます」
ミアレガレットなんて、きっと私が教えなくてもカロスでは有名な方だ……。
少しだけ、静かになってガレットを買う人の声とか、ゴーゴートやメェークルの鳴き声が聞こえた。
「それではボクらは失礼しましょうか、ドーブル。なまえさん、それからマーイーカもまた会いましょう」
「う、うん」
頭を少しだけ下げて、彼は私たちに背中を向けてしまう。路地を曲がり、どこへ向かう彼の背中を手を振って見送る私は少し間抜けだ。
良い人だったな、で終わるんだろうなって思う。
きっと彼も私のことを忘れ、るタイプじゃないかもだけどきっとカロスの思い出の一つになって終わりなんだろうと思うと、ほんのちょっと寂しい。
「まーいーかー」
ぐりぐりと私を押したマーイーカが発光体をピカピカとさせる。
「……なによ」
私はずつきを覚えさせたつもりはないんだけどと、ごちるとぐりぐりの威力がどんどん強くなる。
「……私、今日可愛い?」
「マーイーカ?」
「うん、君の方が可愛いよね」
男の子のマーイーカが最後に一発、ずつきをくれる。可愛いは禁句なんだって。
慣れない街の中を走り出す。石畳の感触が少し走りにくいけど、ゆっくりスピードを上げる。
イリマくんの入っていった路地へ入って、辺りを見渡しながら前へ足を動かして、街の道を駆けていく。追いつけるかな、イリマくん、どこに行くんだろう。
「マーイカ!」
マーイーカの声で、はっとする。広場の方の向こう側にあのピンク色の髪が見えた。
「イリマくん!待って!」
私の声に足を止めたイリマくんが、振り向いた。私を見て、どうしたのだというように首を少し傾ける。髪の毛がまたぴこっと揺れた。
「わ、私にカロスを案内させてくれないかな!」
広場の真ん中のモニュメントをはさんで、イリマくんは驚いたように目を開いた。ドーブルはそんなイリマくんを見上げている。ドラマや映画のようには格好がつかなくて、走ったせいで息の切れた私の方へイリマくんが近づいてくる。
「いいんですか?」
「もちろん!」
大見得切った私だけど、案の定というか、なんというかミアレシティだけは専門外で「ごめん、ここどこだっけ?」なんて言って、マーイーカのずつきをもう一発食らってしまうのは、言うまでもない話だったりする。

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